「あの、いきなりどうしたんですか? こんなとこ…」
つい口調もきつくなる。
工藤は返事もせず、さっさと車を降りて、玄関に向かう。
わけがわからず良太も後に続いた。
もともとの主は工藤の曽祖父だったというその山荘は、灯りのついた玄関から現れた平造老人が住み込んで管理している。
一人で寂しくないか、と良太は聞いたことがあるが、案外、地元の人との交流もあるらしく、元来世話好きな老人は何かと重宝されているようだ。
「メシは部屋の方に用意してありますから。足りなければ、キッチンにパンとチーズくらいは。明日の朝食はどうなさいます?」
「適当に頼む」
工藤はそう言うと、階段を上っていく。
「あ…どうも、こんばんは、平造さん。お邪魔します」
何が何だかわからないといった態の良太はとりあえず、平造に挨拶する。
会釈だけ返した平造は玄関に鍵をかけると、自分の部屋へと戻っていった。
納得がいかないまま、良太は工藤の後から二階の部屋へついていく。
良太が怪我をして静養していた時に何日か滞在したが、それ以後は会社関係でみんなと一緒に来たことがある。
まあ、初めて、の時は、今夜のように強引にここに連行されたのだが。
何だか二人きりだと、いかにも怪しすぎるではないか。
それこそ、社長と愛人の密会、とか?
「腹が減ったろう。遠慮なく食っていいぞ」
工藤は上着をソファの背に放って、タイを緩める。
部屋はエアコンが効いていて暖かい。
窓の外は雪が降り始めたようだ。
テーブルの上には、平造が用意した食事がまだ湯気をたてていた。
ローストチキンの塊、ソーセージやハム、サラダ、スープといったものに、パンとチーズが添えてある。
「ってより、一体、何で急にこんなとこ」
納得がいかない良太は、思わず声を荒げる。
「シャワー、先にするか」
クールに見えて、工藤の口調もやはり穏やかならざるものがある。
「冗談じゃないですよ、どうして俺が、その小笠原のやろうのとばっちりをうけなきゃならないんですか! アッタマくる!」
「頭にくるのはお前だ」
煙草に火をつけた工藤が静かに言った。
「へ……? 俺? 俺が一体何したってんです?」
良太はちょっとたじろぐ。
とりあえず今現在、工藤の怒りを買うような心当たりはない。
「千雪のことなんか、いつまでもぐだぐだ引き摺るようなことか」
良太はギクッとする。
話はいきなり核心をついてきた。
「何の関わりもないのに、お前にけんか腰でこられる千雪には、いい迷惑だろう」
途端、良太の中で、何かがキレる音がした。
何を怒っているかと思ったら、そういうことか!
結局、千雪さんのことが大事なんだじゃないかよ。
「ああ、わかりましたよ。金輪際、千雪さんには不愉快な思いをさせるようなことはいたしません! 失礼します!」
良太は踵を返して、部屋から出て行こうとする。
「どこ行くんだ?」
「帰るんです! まだ、電車動いてるし」
いきなり工藤の腕に肩を掴まれ、力任せに引き戻された良太は、ソファに倒れこむ。
「何、すんですか! ナータンのご飯もあげてないし、帰る……!」
喚いて暴れてもものともせず、工藤はその身体を押さえつけた。
「やめろっつってんだろ! あんたなんかのことも金輪際、忘れてやる!」
「うるさいやつだな」
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