「俺が仕事放り出して、わざわざこんなところまでつれてきて、可愛がってんのはお前だろうが」
「ふざけんなよ! 可愛がってってなんだよ、言うにことかいて!」
良太は唇を噛む。
「…人が真剣にゆってんのに!」
「俺のどこが不真面目だ?」
「なんだよ! 人、バカにして……あの人があの京助を好きだとしても、だからってあんたの心が急に変わるはずないだろう……」
半泣きで良太は訴える。
「そうだと言えば、気が済むのか? お前は」
ビクッと良太の体が震える。
「実は千雪を愛しているとかって?」
そんな言葉は聞きたくない!
良太は耳を塞ぎたくなる。
「それで俺から離れられるわけか? お前は」
唇をかみ締めながら拳を握る良太は、切なさと憤りが混じった目で工藤を睨みつける。
「俺を好きなくせに」
思わずカッとなって、良太は立ち上がるが、工藤がその腕を引っぱった。
バランスを崩して膝の上に倒れる良太の顎を掴み、乱暴に上向かせる。
「いい加減にしろ、バカやろう!」
確かに。
引き込まれるように魅了されたあの夜は、桜の花に狂わされたのか。
だが、手に入れたかと思った千雪はまるで掴んだ手のひらで解け消える雪のように、実態のない幻影でしかなかった。
あの頃は、心をどこぞに置き忘れていた工藤にもまた、与える愛など、どこにも持ち合わせがなかったのだ。
「人の心は掴みようがないからな。良太。お前が俺を好きになるのも嫌いになるのも、俺にはどうすることもできないさ」
「俺はっ…!」
「ただ、お前をそんなに泣かせるのはごめんだからな」
ポロリと、良太の目じりから涙がこぼれる。
工藤はそれを見て柔らかいキスを落とす。
「愛というなら」
工藤は苦笑いする。
「あいつに対して、あいつを追いかけていた昔ではなく、今の方があるだろうな」
そんな言葉にさえ、良太の心は敏感に反応する。
「だが、言っとくが、こんな風にかっさらってきて、抱いて傍に置いておきたいってなやつとは全く別もんなんだぞ」
工藤は良太を引き寄せる。
傲慢な激情でもって良太を服従させながらも、次第にその心に安堵をもたらしていく。
工藤の腕の中で、さっきから気になっていたのが何か、良太はやっと気づいた。
良太の視線の先にあるテーブルの上で、着信を知らせる携帯のランプが点滅し、かすかにバイブが音を立てている。
「ちょ、あれ、工藤さんの携帯!」
「んなもん、ほっとけ」
煩そうに工藤は言う。
「だって、緊急かも。何回も、かけてきてるみたい…」
仕方なく、良太を離すと、工藤は立ち上がって携帯を手に取った。
「どういうことだよ! 撮りが終わってみたら、あんた、帰ったって言うし、大体、何べんかけてもでないしよ!」
案の定、小笠原からだった。
「俺がいなくても、仕事はできるだろう。ぽっと出の新人じゃあるまいし」
良太は、『仕事を放り出して』と工藤が言っていたのを、はっと思い出す。
え、まさか、工藤さん……
「ああ、わかった。忙しいから切るぞ」
工藤は今度は電源まで切ってしまう。
「工藤さん、ひょっとして、小笠原さん、放り出してきたんですか」
「ああ、お前と違って、やつなら、ほっといても死にやしないさ」
「どうせ、俺は、一人じゃ何もできませんよ!」
工藤は笑い、むくれる良太の肩を抱くと、再び二人してベッドに倒れこむ。
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