将清は優作が突っ込んだために花が倒れたり折れたりしてしまったチューリップを植えなおしていたのだ。
「…っって…!」
慌てて立ち上がろうとして、ぶつけた腕の痛みに思わず声を上げる。
「おい、大丈夫か? 病院行った方がいいぞ」
「大丈夫だ。俺がやるからいい」
優作はヘルメットを取ると、将清の横で倒れたチューリップを植え直し始めた。
将清の足元には、『みなみようちえん ひよこぐみ』という札が見えた。
「お前さ」
「だから、俺がやるからいいっつってっだろ!」
すると将清は唐突に笑い出した。
「何、笑ってんだよ!」
「何かお前、こないだこれ植えてた子とおんなじ顔、口尖らせちゃってさ」
これ植えてた子?
「……って、てめぇ、ガキどもと一緒にすんな!」
優作が怒って振り返ると、将清はすっと後ろに飛び退いて、笑いながらキャンパスに向かって走っていく。
「ちゃんと直しておけよ!」
「あんのやろー!!!」
人をコケにしやがって!
しかも俺が一番気にしていること!
だって、優作くん、可愛いんだもん。
唯一つき合った彼女の口癖だ。
昔から女の子は大概、可愛い優作くん、に近づいて世話を焼きたがった。
曰く、母性本能を擽るタイプ。
だから男らしいカッコよさに憧れ、そういうやつを猛烈にライバル視した。
高校を卒業すれば子供っぽさも消えるだろうし、目いっぱい努力して入った大学でも、頑張って絶対いいとこに就職する。
そう自分を鼓舞してスタートしたはずの大学生活なのに、のっけから何てザマだ。
しかも天敵に無様な姿をさらした上に、バカにされた。
腸が煮えくり返るという言葉の意味を初めて身をもって知らされた気がした。
それでも、そんなことで負けてはいられなかった。
バイクには少々擦った跡がついたが、幸い打ち身やかすり傷で済んだ。
ただし花壇のチューリップはあらかた植え直せたものの、中には完璧折れているものもあり、仕方なく幼稚園を訪れて訳を話し、優作はその本数分を花屋を探して購入すると頭を下げた。
幼稚園の先生はちゃんと話してくれただけでいいとは言ってくれたものの、それでは自分が許せず、花屋の場所を聞いて買いに行き、きっちり花壇を直した。
お蔭でその日は昼からの授業しか出ることができなかった。
しかも昼を食べる間もなかったから、優作は授業が始まる数分でサンドイッチをコーヒーで流し込んだ。
お蔭でということもないか、自分がしでかしたことだし。
そう言い聞かせてはみるが、優作を見てバカにして笑っていた将清の顔がふとしたはずみに蘇り、またしてもムカムカ腹が立ってくる。
あのヤロー!
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