何とか授業の始まる前に階段教室に辿り着いた優作は、前の方の席に座ると、リュックからノートとペンケースを取り出した。
「お、優作ちゃんじゃないか、しっかり花壇直したか?」
朗らかな、まだ記憶に新しい声が上から降ってきた。
「な、お前、何で俺の名前……」
振り仰ぐ優作の背後からにゅっと腕が伸びて優作のペンケースを指さした。
そこにはくっきりマジックペンで書かれた江川優作の文字があった。
「くっ………!」
佳澄にもらったヤツだからどうしても捨てられずに、ただ、くっついていたハートマークが気になって、大きく名前を書いて塗りつぶしたんだっけ。
「だからって、何で優作ちゃ………」
「すごい、黒目おっきい! 優作ちゃん! 可っ愛い!!」
再び将清に文句を言おうと振り返った優作だが、今度は机の下から見上げられるように言われたくないことをはっきり言われて、視線を目の前に戻したのだが、途端、固まった。
まともに見つめ合ったその美人は、長い髪をしなやかにまとめた、それこそ黒い瞳の大きなエキゾチックな日本人ではない透明な肌の持ち主だった。
「おっと、優作ちゃん、ミドリに近づきすぎるなよ、食われるぞ」
いつの間にか隣に降りてきて、やたら凛々しそうな眼差しを向けた将清は優作をミドリから引きはがすようにして脅した。
「将清、いくら食べちゃいたいくらい可愛くても襲ったりしないし」
将清の傍らにはいつか見た女子がくっついていたが、この立ち上がったらパンツの細いウエストの高さがあり得ないプロポーションのミドリは優作は初めて見る顔だ。
って、感心なんかしてる場合じゃなかった!
「か、可愛いとか、ちゃんづけとか、勝手に人で遊ぶな!」
拳を固めて精いっぱい声を張り上げた。
周りが一瞬静まり返った。
と、思ったその次の瞬間、ミドリも将清も他の女子も笑い転げている。
さらにお陰でその周囲までに何事かと注目を浴びることになった。
これって、イジメかよ?
かあっと頬が熱くなり、優作は益々イライラが込み上げてきた。
「何がおかしんだよっ!」
喚くと、ミドリがまた吹き出した。
「おいこら、清純無垢な少年をイジメてんじゃないぞ、きみたち!」
そこへ通りかかったのは元気で、傍らにはまるで用心棒のようにごつくてでかい強面というより怖い男が突っ立っていた。
「イジメてないよ、元気! だってさ、ギャップ萌え! この少年、江川優作ちゃん!」
ミドリが笑いながら元気に訴える。
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