「いや、幕末藩士みたいな勇壮な名前に恥じないガッツな少年だって」
「ガッツってそれ、将清、いつの時代の人よ?」
女子が馴れ馴れしく優作の肩に腕を回した将清に突っ込みを入れながらまた笑う。
「俺、こないだまでばあさんと二人暮らしだったし」
「こらこら、高杉晋作にだって、少年時代ってもんがあったはずだ」
目の前でのたまう元気とミドリが並ぶと、ここは芸能界かとでも言いたくなる。
「悪かったな! かあさんが好きだった昔の俳優の名前をつけたんだよっ!」
途端、ウソッとミドリが言ったかと思うと、ツボにはまったのか笑いが止まらないようだ。
名前についてだけは優作は母親をのろった。
まだキラキラネームとかの方がどれだけマシだったか。
前にも名前の由来を言ったら同じような反応をされたのだ。
優作も気になって、母親が好きだった往年の名俳優の映画を見たことがある。
おそらく、今も知っている人は知っている、男らしいカッコよさしかない俳優を思い浮かべたに違いない。
「きゃああ、ダブルギャップ萌え!」
「わかる! 俺もさ、元気なんて名前つけてくれたおかげで、風邪一つ引けないんだぜ? けど良かれと思ってつけた親を怨んじゃいけねぇぜ? 優作ちゃん!」
元気がさも気の毒そうに頷きながら、勇作の肩に手を置いた。
「だから、ちゃんづけすんなつってっだろ!」
その手を払いのけた優作が喚くたびに周囲に笑いが広がっていく。
「ほら、相方が呼んでるぜ、元気。センセも来たし、ほら、みんな、散れ!」
いかにも手を差し伸べたかのように偉そうに優作の隣に陣取った将清が指図すると、ようやくその場が沈静化した。
以来、友達が一人もいなかったはずの優作は、何でだよ?! という心の叫びも虚しくいきなり一番華やかなメンツの中に放り込まれることになってしまった。
元気、ミドリを中心にいつも将清の周りには同じ顔ぶれがいたが、同じ学部の英米文学専攻だけでなく将清は誰にでも同じように接するので、付属、外部組、学部関係なくいろんなメンツが集まってきた。
眼鏡のインテリ風で話がうまい古田光彦は高校時代バンドをやっていて、元気と音の話で意気投合したらしい。
よく古田と一緒にいる浅野涼子は法学部だが、高校の時から付き合っているといい、しかも美人だし、遠恋を拒否されて別れた優作にとっては羨ましい限りだった。
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