その夜、元気のアパートに連れて行かれた優作は、言われるままにシャワーを浴びると、元気が温かいミルクティを作ってくれた。
用心棒は缶ビールを飲みながら床に座っていた。
「手、貸してみ」
元気が優作の手を取ると、手のひらのかすり傷に絆創膏を貼ってくれた。
「怪我はしてないみたいだが、大丈夫か?」
将清に突き飛ばされた時はしりもちをついたが、手をアスファルトで擦っただけだ。
「平気。ありがとう」
ようやく優作はそれだけ言った。
まだ将清が男を殴りつけている衝撃的な情景が頭にあって、優作は眉を顰めた。
「ベッド使っていいから、もう寝ろ」
元気の声は優しかった。
一瞬申し訳ないとは思ったものの、もうとにかく眠ってしまいたかった。
ショックを受けたのは将清に突き飛ばされたことだけではない。
なんだ、やっぱりミドリ、将清とまだつきあってるんじゃん。
そんなことを思った途端、何か重い、痛いものが胸の上に乗っかったような気がして、けれど優作はそれが何なのかわからなかった。
元気がくれたミルクティには多分何かアルコールが入っていたのだろう、身体がフワフワして温かくなり、優作はやがて眠くなってきた。
少しうつらうつらしてきた時に今にも落ちそうな瞼の隙間から、用心棒が元気を抱き寄せているようにみえた。
へんなの、用心棒が元気にキスしてるなんて……
優作は夢うつつに頭の中でつぶやいたが、それからの記憶は全くない。
翌日、元気も優作も寝過ごしてしまい、「もう、時間、ヤバい!」と元気が携帯を見て叫んだ。
用心棒は先に部屋を出たのだろう、姿はなかった。
一限目に一般教養で出席にうるさい教授の心理学がある。
コーヒーだけ飲んで大学まで走り、教授が入ってくると同時に二人は教室に駆け込んだ。
息を切らしながらノートを広げ、優作は何気なくいつもの定位置に目をやった。
隣は開いていたが将清はミドリと何か言葉を交わして笑っていた。
何だ、心配することもなかった。
ってか、俺が、心配する必要なんかないのかも。
第一俺なんか、将清の腕一つで跳ね飛ばされるくらいヤワいわけで。
例え加勢してくれっつっても、まず役に立たないよな。
「あのさ、昨夜のこと、優作がショック受けてるんじゃないかって、ミドリから、フォローしておいてくれってラインあって」
今更ながらに自嘲している優作に、元気が前を向いたまま、小声で言った。
「え?」
「将清の暴挙? 何か、どうもわけがあるらしくて」
確かにいつもの将清とは人が違ったみたいになっていた。
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