「モデルがそんなに食っても平気なのか?」
老婆心ながら優作は言ってみた。
「やだ、モデルのために生きてるんじゃなし、食べるななんて言われたらとっととやめるわよ」
これがミドリの潔さでもある。
「ランウエイに命かけてるって人には申し訳ないけど、あたしはどうせバイトだし」
軽く言ってミドリはコーヒーを飲む。
「わかったよ。それで? モデルのことじゃないんだろ? 大事なことって。ってか、何で俺? 俺、何も知らないし、経験もないし、田舎者だし、ミドリに相談されるようなヤツじゃないだろ? 将清には話したのか? その大事な話って」
ひょっとすると将清のことだろうか?
俺が将清と最近親し気だから、元サヤに戻りたくて力を貸せとか?
そういった頼みごとを他の女子からはちらほらされたことがあった。
将清と親しい俺から合コン誘ってほしいとか、二人で話したいから、お願いしてほしいとか、携帯番号教えてほしいとか。
そういう時、将清に聞いてからじゃないとわからないとしか答えようがない。
第一、見ず知らずの女子のために、そこまでする義理は優作にはない。
けれどこれがミドリなら、話は別だ。
「その、優作のことなのよ」
ミドリの言葉は深く重く優作の心に飛び込んだ。
優作は知らずゴクンと唾をのみ込んでミドリを見つめた。
「え、ミドリなら多分、将清の彼女だって思われてるし、俺なんか協力できることなんかないぞ? 元サヤに戻りたいって将清にちゃんと言えば……」
「違うよ、あたしのことじゃなくて、ってか、元サヤとか、あたしらそういうんでもなかったって言ったじゃない」
「だって、将清のこと一番わかってるのはミドリだろ?」
「ある意味そうだけど、身体の付き合いはあったけど、将清もあたしにそういう感情はないと思うわ」
優作はその言葉に渋面を隠せなかった。
「ゴメン、俺、ガキだから、そういう付き合いってわからないし」
すると、ミドリははあ、と大きく溜息をついて、両手で顔を覆った。
「ううん、ガキだからとかじゃなくて、それは、まともな感情だと思うわ」
ミドリはしばし唇を閉じていたが、「Here I am, will you send me an angel………」と何か歌うように口にした。
「いつも、口癖みたいに歌ってる子がいたのよ。ケリーっていってさ、ラジオで聞いたその曲が好きだって、俺はここにいるよって、いつも歌ってれば、いつかきっと天使が来てくれるって、可愛い子でさ、それこそ天使みたいな笑顔でさ」
唐突にミドリが話し出した内容に、優作は最初何を言っているのかわからなかった。
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