「小学校の頃から、地域のセンターに子供たち相手にアメフト教えてる人がいて、元アメフトの選手だったけど足を怪我してそれでセンターで仕事してたのよ」
ようやくそれが、ミドリと将清が育ったというニューヨークの話だということが分かってきた。
「ちっちゃい子から十四、五歳くらいまでのその辺りの、学校は違ったけどいろんな地区からいろんな人種の子が集まってて、将清とケリーもずっとその人、ジョーに鍛えられてた。体格も大きいし、二人とも筋がいいって。私はたまに休日にやるゲームを見に行ったりしてて、ケリーとも仲良かったんだ」
ミドリは頬杖をついて、その当時を思い出しているのだろう、どこか宙をさ迷っているかのような視線は楽しそうなものとは違っていた。
「ハイスクールの三年の時だった。明るいとこしか見たことなかった将清が何か暗くて、聞いたら、ケリーが練習に来てないっていうの。それで一度ケリーの家に行ってみるって言うわけ。あたしはすぐに反対したよ」
ミドリは知らず知らず拳を握りしめていた。
「何で?」
反対したという言葉に、優作は怪訝な顔で聞いた。
「あのあたりに住んでないとわからないだろうけど、ケリーの家って、というかケリーってストリートギャングが横行してるようなところに住んでて、ってか………ケリーの兄貴がストリートギャングに入ってたのよ」
優作にとってはまるでドラマのような話をミドリは続けた。
「でも次の土曜も、ケリー、練習に現れなくて、将清、ケリーの家に行くって言い出して、ちょうどそれをジョーが聞きつけてやめろって将清を諭したんだけど」
ミドリはフーッと大きく息をついた。
「ケリーのようすがその頃なんか変だとはあたしも思ってたんだけど、ジョーが言うには、ケリーがクスリをやってるか売ってるかしてるかもしれないって。けど将清は行ってみるって聞かなくて、ジョーが根負けして一緒に行くことになって」
ミドリはコーヒーにミルクを入れてスプーンで無暗に掻き回した。
「ジョーは言ってた。将清の正義感くらいじゃ抗えないものもあるって。その土地やそこに住む人や、いろんな人種がいて、差別とか当然のようにあって、クスリなんかに手を出しちゃダメだなんて、わかってたって普通に売ったり買ったり、そういうところで抗って這い出して行ける人って並みの信念じゃないんだって」
一気にミドリは吐き出すように言った。
「それでケリーには会えたのか?」
「最悪だったんだ」
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