ミドリの話から、何かどす黒い重いものが優作の胸の中に広がり始めていた。
「あたしは、あとでジョーから聞いただけだけど、ケリーの家を探し当てて行ったらドアが開いてて、ジョーの制止を振り切って将清がケリーのこと呼びながら中に入っちゃって、そしたら将清のケリーを呼ぶ声が悲鳴みたいに聞こえて、ジョーが慌てて後を追ったら、将清がケリーの兄貴をメタ殴りにしていて、傍にはナイフが転がってて、ケリーが死んでたって」
優作の頭の中でそれらの情景が再現されているかのように動いていた。
ミドリはふうっと息をつきながら髪をかきあげた。
「ケリーの兄貴もクスリでおかしくなってたみたいだけど、ケリーもナイフでやられなくてもクスリで死んでたって、ジョーが言ってた。ケリーの兄貴は売人させられてたらしいけど、自分でも手を出しちゃったみたいで。とにかく、将清、それからカウンセリングとか受けたりしたけど、元の将清に戻ったとか思ってるといきなり、感情が爆発するみたいなことがたまにあって、ああなると、沈静化するまで手が付けられなくて。ほんとは日本に戻る予定じゃなかったんだけど、将清の親が日本に将清を帰すってことになって。あたしも将清が心配で一緒に日本に来たんだけどさ」
だからか。
昨夜、芽衣が元気に話したらしいのだが、男が女にクスリを渡しているところを見たという。
おそらく将清もそれを見たのだ。
それで優作の頭の中でケリーのことがオーバーラップしたのだろうか。
「もう最近は、あんましなかったんだけどね、夕べ、多分あの男とケリーの兄貴がダブっちゃったんだと思う、将清。びっくりしたよね、優作」
問われて、少しためらいがちに言葉を選ぶ。
「ああ、そうだね。そんなに酔っ払ったのかとか、はじめは思ったけど……」
「いきなりこんなヘヴィな話して面食らったとは思うけど、優作、お願いだから将清を見捨てないでやってほしい」
ミドリはまっすぐ優作を見た。
「え、いや、見捨てないでとか、何、それ」
思いもよらない言葉に、どこか言葉がぎこちなくなる。
「第一何で俺なんかに、そんな……話、するんだよ」
「だって、優作、引いたでしょ?」
睨みつけるように、ミドリは言った。
確かに、一歩も二歩も引いてしまったのは、優作もわかっている。
授業の後もそれがあったから、将清に辛辣な言葉をぶつけてしまった。
でも引いた理由は………。
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