「茶化すなって」
「せっかくだから泊まっていけよ。他に用もないんだろ?」
「え、けど…」
「うちの母親、お盆が終ったと思ったら、さっさと同級生と旅行に行っちまって、俺一人なんだ。昨日から北海道だぜ? お盆休みもなく、息子が汗水流して働いてるってのにさ」
そう言うわりには、暑い夏というのに、元気の仕草は相変わらずゆったりと優雅だ。
綺麗な顔立ちは実は何を考えているかわからないが、人当たりはすこぶるいい。
「紀ちゃん、コーヒー入ったよ」
「わ、サンキュ」
紀子は優作の隣に陣取った。
客のいない時を見計らって、元気は自分用にもカモミールティを淹れる。
「何か、急に冷えてきたな」
「ああ、さっきまで一杯だったから、エアコン温度下げてた」
普段は夏でも店の中に足を踏み入れるとひんやりとした空気に取り囲まれる。
エアコンなど必要ないくらいだ。
元気は空調の温度を上げた。
「やっぱ降ってきた」
優作は窓を振り返った。
雷とともに急に雨が振り出したようだ。
窓から覗いても、雨で外の様子が見えない。
やがて雨に降られた観光客がどっと傾れ込んできて、また店内は一杯になった。
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