ACT 2
酒も扱っているため夜も開けることもあるのだが、元気は七時で店を閉めた。
優作は携帯で家に電話を入れると、急な仕事で帰るのは明日になるからと言い訳した。
暇だったので、紀子が帰った六時過ぎから優作はカウンターに入って洗い物などをして、元気を手伝った。
元気の車で一緒にスーパーを回り、買い出しをしてから、優作は店から数件先の元気の家に案内された。
オン、と一声吠えて、尻尾を振りながら廊下を走ってきたのは、元気の愛犬でリュウ。
名前の由来は聞くまでもない、プロ野球のドラゴンズだ。
「今年は絶対優勝だっ!」
あのきれいな顔が、野球、それもドラゴンズとなると豹変するのを学生時代からの付き合いである優作はよく知っている。
野球に関しては、生粋のジャイアンツファンである将清とは真っ向から対立している。
材料を広げるなり、元気はキッチンの小さなテレビをつけた。
「そういえば家に仕事だなんて言ってたが、よかったのか? 本当に帰らなくて」
「ああ、いいんだ、別に。どうせ姉さんが子供連れて帰ってて、うるさいばっかだろ」
M市にある実家は、いつもは猫が数匹と父母だけで静かなものだ。
東京にいてたまに母親からの電話を取ると里心がついたりするのだが、帰るたびに老けたような父母の顔を見るのが寂しい気分にもなる。
元気が焼肉用の下拵えをしている間に、優作はテーブルにグラスや食器の用意をした。
「わかるわかる、お盆の二、三日はうちもうるさかったぜ。兄貴が東京から帰ってたし。まあ、甥っ子は可愛いんだけどね」
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「元気、誰か来たみたいだぞ」
「ああ? 誰だろ」
エプロンで手を拭きながら、元気は玄関に向かう。
「お客さん? そっか、じゃまた出直すわ。これ、鮎や。今夜のうちに食えよ」
大きな声が優作にも聞こえてくる。
「おう、サンキュな、いつも」
やがて元気が数匹の鮎が入った袋を持って戻ってくる。
「高校の時のダチだった。お前、ラッキー! 獲れたての鮎だぜ。早速塩焼きにしよう」
その夜の食卓は焼肉に鮎の塩焼きと、思った以上に豪華なものになった。
ビールで乾杯し、焼きたての鮎に齧り付く。
「うまっ!」
ついつい感激して声が出る。
元気の料理の腕もまたいいから、同じ焼肉、塩焼きでも一味違うのだ。
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