たまに優作も将清と『GENKI』のライブに行ったりしたが、元気も用心棒も段々騒がれ方が違う次元のようだった。
「何か、ちょっと元気が心配なんだよね」
学食で相変わらずガッツリとカレーを食べた後、隣のミドリがぼそっと呟いたことがあった。
「え、何が? だってライブ、すげえ人気だぜ? もうセミプロだし、メジャーデビューも近いんじゃね?」
優作は首を傾げた。
「うーん、バンドのことじゃなくてさ、元気自身のこと」
ミドリが意外にお節介というか面倒見がいいということは長い付き合いで分かってきた。
それによく人を見ていて、落ち込んでいたりするとミドリにはすぐ見破られた。
だが優作には、元気はいつもの元気にしか見えなかったし、元気のどこをミドリが心配しているのかわからなかった。
というより、優作は常に自分と将清とでいっぱいいっぱいで、元気でなくてもその心情を思いやる余裕などなかったというのが本当のところだ。
三年の頃には一年のドラムスが入って『GENKI』は盤石の体制となり、インディーズでは『声を上げろ』がヒットして注目を浴び、ジャケットを撮った一年生が『GENKI』のライブにくっついて回っていた。
その一年生が後に人気カメラマンになるとは優作も思わなかったのだが。
やがてミドリは、卒業と同時にニューヨークに戻っていった。
既にアーティストとして名があったミドリにとっては、学業もモデルバイトも学生生活も十分に堪能した、ということらしい。
それ以外に、ミドリが将清のことをもう自分が離れても大丈夫だろうと判断したせいもあるのではないかと、優作は思った。
ミドリはしょっちゅう優作にラインでニューヨークへ遊びに来いと言ってくるが、行ってみたいのはやまやまだが、忙しいし金もないと、実現できてはいない。
一年の時の、あの事件以後、将清は二年の学祭の打ち上げで珍しくひどく酔っぱらった以外は、小さな感情の起伏はあったものの特にひどい状態になることはなかった。
ただ、優作の心の奥底に、ミドリからバトンタッチされた思いは呪縛のように存在していて、どんな将清をも突き放すことはできなかった。
あるいはそのためにのみ、自分が将清の傍にいるのではないかとすら思われた。
だがそれはモラトリアムの中だからこそ許されることで、一歩外に出れば、いくら何でもいつまでもニコイチのようにも一緒にいられることはあり得ないのだ。
優作にとっても、また将清にとっても互いから離れることは必要だろうと思われたし、卒業という一つの区切りは、そのための手段になり得たはずだった。
優作はバイト先でもあった第一志望の出版社に内定が決まった時、これで将清から離れられると思った。
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