それでも夕方、学祭のラストを飾るかのように、元気、一平、古田が結成したバンド『GENKI』のライブ告知がSNSで拡散されたこともあって、どこからともなく人が集まってきた。
オリジナル曲がまだあまりなくクラシックロックや今人気の曲をいくつかカバーすると、学生バンドの域を超えた元気のギターや一平のボーカルにオーディエンスが大騒ぎで、最後には黒山の人だかりとなり、昨日学祭委員会の主宰で呼ばれた人気女性歌手のライブより大盛り上がりを見せた。
演奏された曲の中に優作がどこかで聞いた気がすると思ったフレーズがあった。
Here I am, will you send me an angel………。
それがどこだったのか、その時は思い出せなかった。
ライブの後の打ち上げで、みんながハイテンションで雪崩れ込んだ居酒屋では、他の客が早々に店を出るなど顰蹙を買ったものの、学祭の利益は皆に還元とばかりに将清が大盤振る舞いで、一年だけでなく、二年、三年の『えーべーやきそば』のOBも駆けつけて店は貸し切り状態と化した。
優作が何か違和感を感じたのは、上がりまくっていたみんなのテンションが少し下がってきた頃だ。
もともと酒には強いはずの将清だが、飲み方がハイペースで、まさに浴びるように飲んでいる。
「この辺でお開きにした方がいい。優作、将清連れて帰って」
「ええ?」
暴れたり物を壊したりはなかったので、途中からついて行けなくなった優作は飲むのをやめて静観していたが、唐突なミドリの発言に眉を顰めた。
「はーい! 集中! 時間切れお開きだよ!」
ミドリが声を張り上げたが、まだ大騒ぎは続いている。
「おい! お開きだ! 聞こえただろ!」
ドン! と拳でテーブルを叩きつけたのは一平だった。
潰れている者以外はちょっとシャキッとなった。
まだグダグダと騒いでいるのは将清だ。
「将清! おい、帰るぞ!」
優作は将清の腕を掴んで立ち上がらせた。
「何だよぉ、これからだろぉ」
「ああ、場所を変えるぞ」
「優作のくせに生意気だぞぉ」
「へえへえ」
優作はここまで泥酔した将清を見たのは初めてだった。
自分より大きなガッシリしたガタイの将清に体重を預けられると、優作の足がもつれる。
と、急に軽くなったと思ったら、一平が将清のもう片方の肩を引き上げていた。
二人で将清を引きずるようにして店の外に連れ出した。
その間にミドリが支払いを済ませ、皆を追い立てるようにして店を出た。
一平はタクシーを停め、将清を押し込めると、次に優作を乗せた。
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