「見合いを受けたのは、何とかしなけりゃ、俺自分の人生ダメになりそうな気がして。俺なんか、平々凡々な人間なんだから、この辺で世間並みの人生に軌道修正しなけりゃって」
元気は、「それで?」と先を促しながら、ローストビーフを摘む。
「うん…結局、親戚の薦める人と見合いしたのはいいけど、結婚とか、そういう気にはなれなくてさ。でも将清にはつい見栄張っちゃって、つき合ってるなんて言っちまって…そしたら、先にあいつの方がゴールインさ。ハハ…何やってもあいつには勝てなかった」
優作は一息にグラスを空ける。
「笑えるだろ? その話聞いた途端、俺、足元から地面が崩れてくみたいな気がしたよ。ああ、これで、俺の横からもう将清はいなくなるんだって思ったら……もう、俺、どうしたらいいかわかんないよ……」
優作は膝を抱えて顔をそのまま伏せてしまう。
「あのさぁ、お前が軌道修正しなけりゃって思ってるのは、よーくわかったけどさ」
元気は徐にポケットから携帯を取り出し、文字を打ち込みながら言った。
顔を伏せたまま優作はその次の言葉を待っているが、「うん、このローストビーフ、んまい!」と元気は茶々を入れるので、優作は思わず顔を上げる。
「お前、俺が何言うの、期待してんの?」
途端、辛辣な響きを持った元気の言葉。
「お前が平凡か平凡じゃないかなんて、んなこた俺には関係ない。俺が将清なんかととっとと別れて、田舎で嫁もらえって言ったら、お前、そうすんの?」
「え…」
優作の潤んだ瞳が戸惑うように元気を見た。
「将清がどうした、将清がこうしたって、言うけどさ、要はお前がどうしたいかだろ?」
元気はじっと優作を見据えた。
「ミドリもよりによって優作なんかに面倒なこと押し付けやがって」
物事をズバズバいうくっきり美人の顔を思い浮かべて、元気は眉根を寄せる。
「とにかく、それも吹っ切れたわけだろ? このご時世、物分かりが随分よくなってきたような顔をしているけど、現実問題、お前がいわゆるマイノリティで生きるとか、まあ、家族にはそんなの許せないって思われるかもしれないが。せいぜいその程度だ。んなもん、お前にだって、百年後には平凡だろうと何だろうと、てーんで関係なくなってんだぜ? どうだ? 俺の予言は正しいだろ?」
喫茶店の和めるマスターの顔とは別の、冷ややかで厳しい顔の元気を知っているのは、長年友人をやっている人間だけだ。
穏やかそうな表情ばかりに慣れきっているところへ、バクダンを落とされて、みなは時折ハッと息をのむのだ。
「大体お前ら知り合ってから何年たつと思ってんだ! ウジウジ、グタグタ、やってんじゃないよ」
ビクン! と優作の肩が飛び上がる。
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