「同じ土壌に立ってるから、お前が一歩も二歩も先行っちまって、俺には追いつけないんじゃないか」
優作が不服を申し立てた。
「ばっかじゃね? 追いかけてるのは俺の方だろ? 俺は卒業してもお前と離れたくなかったから、お前が決めた会社に俺も入ったんだ」
「はあ?」
優作は呆れた顔で将清を見つめた。
「あの時、俺が売人タコ殴りにした時、お前、やめろって止めてくれただろ」
将清は古い話を持ち出したが、優作にもそれがいつのことかはすぐにわかった。
「腰ぬかしてただけだろ」
フン、と優作は自分の不甲斐なさだけを思い出す。
「それでもやめろ、ってお前の声が聞こえてたんだ。俺、な、ひどいトラウマで、ああなると周りの声とか何も聞こえなくなっちまって……でも、お前の声は聞こえたんだ」
将清は言いながら優作の額にキスを落とす。
「Here I am, will you send me an angel……って、あいつ、ケリーがいっつも口ずさんでた。あれはさ、あいつの叫びだったんだろ。あいつは、待ってたんだよ、自分を連れて行ってくれる天使が来てくれるのをさ。あいつさ、両親ともクスリで刑務所出たり入ったりで、母親は施設に送られたんだけど、兄貴が結局ギャングとかに入っててクスリ売ってるだけじゃなくて手出しちまって、でもさ、正義の味方がどんだけいたって、どうにもならないことってあるんだよ。あいつだけじゃなくて、周りが同じようなやついっぱいいて、結局は自分で何とか這い出すしかないんだ。その前に、ほんとに天使が来て連れてっちまった」
子供の頃の凄惨な記憶は将清の中で消えることはないのだろう。
優作にはそれこそそれをどうしてやることもできない。
「あの事件の後、俺は引きこもって、Here I am, will you send me an angelって頭の中で繰り返してた。ほんとに天使が来て連れてってくれればいいとも思ったこともあったよ」
将清は闇の深さをさらりと口にした。
「両親が心配して俺を日本に戻すことを決めた時、ジョーが、俺にアメフトを教えてくれたセンターの先生が、俺に言ったんだ。きっと天使はどこかにいる、それはきっと俺を導いてくれる何か、人かもしれないし、動物かも知れないし、形のないものかもしれないが、きっと来てくれるってさ」
優作は将清の言葉に同調して胸が苦しくなった。
「んでさ、あの時、お前がやめろって叫んだ時、わかったんだ、俺の天使が現れたって」
「はあ?」
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