そんなお前が好きだった61

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「ま、親父なんかのことはどうでもいいけど」
 響は面白くもなさそうに言った。
「そういえば、この中でまともなのは正教員の井原だけ?」
 元気が思い当たるように口にする。
「何だよそれ、正教員とか。まともっていや元気なんか親父さんの後を継いで一国一城の主だろうがよ」
「自営業者の苦労を知らねえやつは言いたいことを言うさ」
「とか何とか、GENKIの曲提供して、印税入ってるだろう」
 東が訳知り顔で言った。
「あんなの、みっちゃんが勝手に振り込んでくるだけだろ」
 元気が反論とも言えない反論をする。
「俺も勝手に誰か振り込んでくれねーかな! そしたら部屋借りて、自信もって女の子ゲットに全力を尽くす!」
 東が拳を上げて宣言した。
「お前のアーティスト魂はちっせえんじゃないの?」
 ビールを飲み干した元気はスタッフを呼んで、生ビールを追加した。
「俺、じゃあ、久保田の大吟醸にしよ! それと刺し盛り、牛すじ煮込み」
 井原に続いて東が、「生ビールと餃子、たこわさ」とオーダーした。
「響さん、どうします? サワーとかにします?」
 響がさほど酒が強くないことを、井原はすぐ察したようだ。
「ああ、じゃ、梅サワー」
「アサリの酒蒸しとか美味そうですよ。あ、あとこれじゃないっすか? ジャーマンポテト」
 井原がスタッフにてきぱきとオーダーを告げる。
「ジャーマンポテトって何が出てくるんだ?」
 スタッフが行ってから、響がボソリと言った。
「こういう居酒屋のチェーン店では名前だけっすよ、じゃがバターとそう変わらない」
 井原がにっこり笑う。
「悪かったなチェーン店で。いつも行く店、今夜は貸し切りなんだってよ」
 元気が悪びれずに口を挟む。
 駅に近くてタクシーが捕まえやすいのだけはマシかも知れない。
「じゃあ、そこ次の飲みな」
 井原が念を押した。
「わかったよ」
「そういや、そんなリッチな元気なのに、なんで実家住まい?」

 


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