西高東低2

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 それは聞いていたので佑人も教室を出ると、力は「頑張れよ」と言った。
「じゃ、また明日」
 佑人は力が試験がうまくできたのかどうかと心配しつつ力の後姿を見送ったが、その表情から読み取ることは難しかった。
 ただ今年に入ってから一緒に勉強したりしているうちに、よく佑人に質問をするようになったことでもぐんと力をつけてきた気がしていた。
 志望校についても初めは佑人にも教えようとしなかった力だが、教えてもらった方が対策もたてやすいからと言うとやっと私大の獣医科がある二校の名前を口にした。
 獣医学部は都内にはそう多くないし、地方にもあるのではと佑人は提案したが、力は頑として都内しか受けないという。
 自分が納得しなければ人に何を言われようと考えを変えることはないだろうが、力がもし地方の大学を受けると言えば、佑人もその近くの大学を受けようかまで考えたのだが。
 二日目も力の席の周りに三人集まって昼を取り、数学の試験を終えて帰りも何となく一緒に会場を出た。
「何か、あっという間だったよなぁ、な、リリィ寄ってく?」
 溜息をついたり、項垂れて歩く受験生たちの中、試験が終わったという解放感なのか、坂本はテンションがまた高かった。
「お前って、ほんと、お気楽ヤロウだな」
 ボソリと力が呟いた。
「おや、三人おそろいで。試験の帰りか?」
 『ワンちゃんネコちゃんとご一緒に カフェ・リリィ』のドアを開けると、強面にニヤリと笑みを浮かべて練が声をかけてきた。
「まあ、お二人さんは聞くまでもないが、力はどうだった?」
「知るか。何か食うもん」
 鞄や脱いだコートを無造作に置いて、力は奥のソファにふんぞり返る。
 夕暮れ時、常連客が二人ほどいる程度で、店内は暇そうだった。
 佑人は力の向かいに座り、隣に坂本が陣取った。
「俺、コーヒーとペペロンチーノね」
「コーヒーとサンドイッチください」
 坂本と佑人が交互に言った。
「力は? 食うもんじゃわからねぇだろーが。パスタかサンドイッチかケーキか」
「ケーキ以外全部」
「さては出来が悪かったわけだ? その仏頂面から察するに」
「うっせーな、いつもの俺の顔だ!」
 練にからかわれた力は眉根を寄せ、練を睨みつける。
「共通テストに三段重箱弁当?」
 やがてトレーに乗せたパスタやサンドイッチをテーブルに置き、主に坂本から二日間の報告を聞いて練が聞き返した。
「そ、どんだけ人気女優渡辺美月様の手作りだぜって自慢してやりたかったか!」
 坂本の相変わらず能天気な発言に佑人は苦笑いする。
「ってか、そこじゃねぇだろ? 共通テストに三段重箱弁当ってとこが重要だろ。成瀬くん、でっかいこの荷物下げてったの?」
「ちょっと怪しげだったんで、最初に試験官に三人分の弁当ですって言ってチェックしてもらいましたけど。母が力と坂本の分もって張り切って作ったし、断るわけにもいかなくて」
 ドラマの控室への差し入れか、遠足の弁当のように楽しげに弁当を作っていた美月は、坂本に輪をかけて能天気といえるかもしれないが。
「え、却ってリラックスして緊張がほぐれるってもんでしょ」
「てめぇのどこに緊張があったよ」
 しれっと言う坂本に突っ込みをいれながら力はパスタを掻き込むように食べる。
「お前に俺のデリケートな心がわかってたまるか」
「デリケートだ? 相変わらず笑かしてくれるぜ」
 緊張と言えば、佑人は緊張していた。
 ただし、力がちゃんとできるだろうかという心配で。

 


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