西高東低4

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 佑人も力の邪魔はしたくないので、向こうから声をかけてこなければそっとしておこうと思っていた。
 だが喧嘩をするつもりはなかったのに。
 しかも教室内で。
 ほかの生徒がもの珍しそうに二人のやりとりを見ていた。
 つき合っているとか、クラスメイトに知られるのはさすがにまずいだろうと、佑人は教室内では今まで通りあまり目立たぬようにと過ごしてきたつもりだ。
 それでも三学期に入ってもずっと登校し続けていたのは、もうすぐこうして同じ空間にいることさえできなくなるから。
 だって、もうあと少ししか一緒にいられなくなるのに。
 東山も今の佑人にとっては大切な仲間だし、卒業してしまえば、どうしたってもう力とこんな風に言葉をかわすことさえ、できなくなるのだ。
 家は近いのだから行き来はできるとしても、もう同じ制服を着て窓の外の空を眺めることもできなくなる。
 少しでも力と同じ空間にいたいのにな。
 さすがに英語の補講は遠慮して授業が終わる頃また教室に戻ろうと、佑人は教室を出て図書館に向かった。
 さっきまた口喧嘩をしてしまったことで、何となく落ち着かない佑人は、好きな天体関係の本でも読んでみようかと、書棚を探す。
 最近地球型惑星が発見されたことをネットで見たが、そういうニュースは佑人の想像力をくすぐる。
 実際は何百光年も離れているような惑星に行けるわけもないのだが、頭の中では星々の間を移動することを夢想するのが、ずっと一人でいる時の癖のようになっていた。
 力との距離が急激に縮まってからは、何をするにも力抜きには考えられなくなった。
 それがいいのか悪いのか以前の問題だ。
 一度は、もし自分の好きな学科があれば力の受験する大学も受けてみようかなどと思ったこともある。
 佑人にとっては大学進学などさほど大きな問題ではなかったからだ。
 中学の時、周りから疎外されたことで、一人を実感し、却って達観してしまった。
 宇宙に目を向けると人間がどれほど小さい存在で、いがみ合いなどいかにつまらないことか。
 何もかもがちっぽけなことに思えた。
 それでもやはり、力のことや家族のことやラッキーのことや、大切な存在に対する思いは常に佑人の心を揺さぶるが、人が重要視する大抵のこと、成績や学校や地位みたいなものへ執着はほとんどなくなった。
 だが、もし本当に力と同じ大学を受験したとしたら、力は怒るに決まっている。
 さっきみたいに、自分のやるべきことをしろって。
 やっぱり、そんなふうに言ってくれる力が、とても好きだ。
「よう」
 結局、本を開いたもののあまり内容に入っていけないままぼんやりしていた佑人は、声をかけられて顔を上げた。
「甲本」
「ほんと余裕だよな、成瀬」
 今日は数学の補講を受けていたが、同じクラスになってからもあまり話したことはない。
「共通テストの時もさ、すんげ浮いてたぜ、お前ら」
「え?」
「南澤の連中も割といたんだぜ。T大合格間違いなしなお前ら二人とあの、山本力が、でかい弁当広げて遠足気分でガッツリ食ってて、みんな戦々恐々とメシどころの騒ぎじゃねってのに、マジ、あり得ないよな。俺もう笑っちまってさ」
 非難しているわけでもないようだが、佑人はどう返していいものか戸惑った。

 


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