「はい、俺の方はヤギさんいるし。俺、初めてヤギさんの本領見た気がします。何か迫力違うし、すごいですね」
工藤は笑った。
「ああ、そっちは寒いだろう?」
「ええ、すっげー寒いんですけど、最高気温もマイナスだし、でも、これが本物の自然かって感じで、白鳥とか大鷲とかナマだし、とにかくすごいんです。もう、何もかも圧倒されちゃって」
勢い込んで語る良太に、工藤は電話の向こうで苦笑いする。
「そうか。何か創ろうなんておこがましいことを考えなくていいから、まあ、いろいろ見るだけ見るといい。そういや、また、小笠原がやらかしたんだってな。石川さんに聞いたよ」
「あ、『プリティW』のですか? 小笠原にも十二分に謝罪させたし、俺も鄭重に頭下げたつもりなんですが、何かおっしゃってましたか?」
「いや、お前がついてれば小笠原も人間変わるだろうとか、誉めてたぞ。お前は臨時だって断っといたがな。小笠原には二、三日一人で動いてもらう。今度バカやったら、オフはないって脅しといたから、何とかやるだろう」
「そりゃ、いいや、あ、でも、あいつ、歯、大丈夫かな」
「オフは歯医者通いだろう」
それもちょっとかわいそうな気もするのだが。
「良太」
「はい」
「お前、スキーとかスノボは?」
「スキーは学生の時何回か、長野辺り行きましたけど。初心者コースで」
「撮影が一段落ついたら、一日、二日帰るのを延ばして、楽しんできてもいいぞ」
「はあ」
「じゃあ、ゆっくり休め」
「おやすみなさい」
あっけなく電話は切れたが、妙に工藤は機嫌がよかった。
良太の口から出たのはため息だ。
「ちぇ、楽しんでこい、ったってさー」
工藤がいないのに楽しくもないじゃん。
ってか、やっぱ、一日一回は、あのオヤジの怒鳴り声聞かないと、シャキッとしないっつーか…
なんて言い訳してみても、つまらないものはつまらないのだ。
「あーあ」
まあ、この先ずっと会えないわけでもないんだからな。
それでもとりあえず工藤と言葉を交わした安心感からか、仕事の緊張感から解き放たれた時間は、良太に自然と眠りをもたらした。
翌日は吹雪になった。
吹雪の中、スタッフ一同、再び風蓮湖に向かう。
どんな絵が撮れるかはわからない、どうにもならないかもしれないが、撮ってみるのだ。
下柳が呟くように言った。
仕事モードになると、緊張しながらも次はどんなものに出くわすのかという期待感で、良太はわくわくする。
クーーーーン!
降りしきる雪の中、一羽の大きな白鳥が大きく羽ばたいている。
切ない。
何だかそれがとても。
自然の厳しさと同時に、野生動物の雄雄しさをも感じるのだ。
寒さも忘れて、その情景をいつまでも眺めていたい。
そんな想いにかられて、じっと良太はその場に立ち尽くしていた。
「良太ちゃん、おい、大丈夫か? お前さんが凍っちまうぜ」
下柳に呼ばれて、良太は我に返る。
「いいですよねーー」
何がとも言わず、そう口にすると、
「いいだろう?」
下柳も笑って返す。
「これが病みつきになるとこなんだよなー。俺も工藤も」
「何か、わかる気がするなー」
「良太ちゃんは、工藤に刷り込み状態だから、工藤がいいって言うもんは、何でもいいんだよなー」
下柳が笑いながら良太をからかう。
「えー、ヤギさんのことも、俺、ホレなおしましたよー。仕事してるヤギさん、目が生きてるし」
「このやろ、じゃ、普段の俺の目は死んでるってか?」
「うーん、そーともいうかな?」
下柳は笑い、良太の後ろ頭を手でかき回すと、
「おーい、そろそろ引き上げるぞ」
と、スタッフを呼んだ。
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