ACT 3
翌朝は、かろうじて雪も小降りになり、中標津町を出た一行は、一路道西へと向かった。
昼にはニセコに着いた一行は、一旦宿となる『ホテルニセコ』に荷物を預け、その足で撮影に出向く。
だが、それも、風蓮湖の時とは打って変わって、楽しげに辺りに生息する野生動物を撮りまくり、夕方六時頃にはもう、ホテルに戻ってきた。
「これで任務終了だ。良太、お疲れさん。あとは思い切り遊んでいけ」
「はあ」
実はもう帰りたいような、微妙な心持で良太が返事すると、下柳が続けた。
「それなりに成長したな、良太ちゃん」
急にそんなことを言われ、良太は照れくさい。
「いやあ、そんな、別に」
「工藤がさ、ボソッと言ってたよ」
「工藤さんが?」
「もともとがむしゃらなところがあったが、最近はちょっと落ち着いて、物事をわきまえて動くようになったってな。成長したってよ」
それだけ言うと、ちょっと手を上げて、下柳は笑顔で部屋に向かった。
工藤がそんなことを?
本当ならとても嬉しい。
すぐにでも飛んで帰りたくなる。
心地よい疲労感でホテルに戻ってきた良太がフロントに行くと、「広瀬様、お荷物が届いておりますが」と声がかかった。
「荷物? 俺のはこれだけですけど」
「いえ、先ほど届きました。工藤様からです」
驚いている良太に差し出されたのは、なんと、スキー用具一式らしい。
しかもどうみても真新しいものだ。
バッグとケースに入ったスキーを手にとって、良太はしばし呆然とする。
ホテルマンにバッグを持ってもらい、エレベーターで部屋へと向かう。
部屋についても、しばらく呆然としていて、何だか実感が湧かない。
バッグを開けてみると、最新のウエア、ブーツなどが入っている。
「うっそー、これって…」
ひょっとして工藤がくれたとか?
半信半疑で、携帯を手にとる。
コール六回、手が離せないのか、と思った頃、工藤が出た。
「あ、俺、あの、何か、スキー届いたんですけど…」
「ああ、持っていないだろうと思ってな。デザインなんかに文句は言うなよ」
「文句なんて、あの、じゃ、これって俺にくれんの?」
「じゃなきゃ、わざわざ送った意味がないだろう。そのおもちゃで、遊んでこい。いらないんなら、返してもいいが」
「いらないなんて、言ってないだろ。嬉しいに決まってますよ。ありがとうございます! 使わせてもらいます!」
工藤もくればいいのになー。
そんな心の声が聞こえたかのように、工藤が言った。
「俺も明日そっちに行く」
「え、ほんとに?」
思わず良太は嬉しげに聞き返してから、
「何しにくるんです?」
なんてつい口にする。
「ガキが一人で寂しそうにしてるからに決まってるだろうが」
絶対笑いながら言ってるに決まっている。
「誰がだよ! 俺は別に、全然、楽しんでますよ」
そして、付け加える。
「まあ、くるのは工藤さんの勝手だけど」
工藤は笑いながら電話を切った。
何だか今日も工藤は機嫌がよさそうだ。
よほど、ニューヨークでの志村の出来がよかったのだろう。
それからしばらくは、良太も有頂天だった。
黒とブルーのウエアは、着てみると良太にぴったりでよく似合ったし、ブーツは履きやすい。
良太ははやる心を懸命に落ち着けようとしながら、遠足の前の小学生のように寝つかれなかった。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
