ニューヨークで初舞台を踏む志村嘉人に、小杉と工藤も同行して現地にいる。
世界で既にその名を知らしめている演出家筒井明彦演出の『ハムレット』の舞台出演だ。
過去のシェークスピア劇にとらわれない、斬新な演出が話題になっている。
その筒井と組んでプロデュースしている工藤としても、このニューヨーク公演はぜひとも成功させたいところだ。
今日が初日だっけ。工藤さんも力入るよな~
そういえば、CMの撮影でイタリアに行った時だ。
工藤の高校時代のクラスメイト、加絵が、いや、工藤の元彼女でもあったわけだが、工藤は日本に燻っている男じゃない、と言ってた。
事実これからもっと、海外にも活躍の場を広げていくに違いない。
俺もうかうかしてらんないな~
「小杉の代わりに自分がニューヨークに行きたいとか思っただろ?」
「な…なんで俺がニューヨークだよ!」
いきなり小笠原に図星をつかれ、良太はハンドルを切りそこなうところだった。
「俺の面倒をお前に押し付けて、小杉がとっととニューヨーク行っちまったからさ」
工藤がいないからつまらない、なんて心の内を見透かされたのかと慌てた良太だが、ほっと胸を撫で下ろす。
隠そうというつもりはないが、小笠原にはまだ、工藤と自分の関係は云々なんてことは話していない。
社内の人間だけでなく知っている者もいるのだが、あえて話すことでもないだろう。
ただ、そんな工藤への想いとは別に、敏腕プロデューサー工藤高広をもっと見てみたい、というのはある。
仕事を任されるのは嬉しい。
責任は無論あるが、それだけやりがいもあるというものだ。
ただ、たまに、工藤の仕事をアシストする、それも楽しみなのだ。
工藤が実際仕事をしているところを垣間見ることができるからだ。
いかんせん、小さな会社ゆえの、いやそれ以上に諸々の事情により万年人手不足ゆえの忙しさから、そういう機会はそうそうない。
ま、とにかく、あの怒鳴り声すら聞こえないと寂しいというのが、今の良太の本音だ。
「お前、それ、自分の所業自覚してて、言ってるのか?」
「それって?」
「うちの事務所入ってから、俺はただ漫然とお前の面倒見てきたわけじゃないんだ。いいか、今までに何回マネージャー求む、なんて広告出したと思う? 五回は軽く越えてるんだ。それ見てきてくれたマネージャー希望者、十五人はいた」
「へえ、そんなにいたっけ?」
小笠原は涼しい顔だ。
「いたんだよ。そのうち、面接で返したのが十人、残った五人の内二人は三日と続かなかった。で、未だに志村さんの仕事だけでなく、面倒なお前の面倒を押し付けられている小杉さんが迷惑しているってことだ」
「おもしれー、良太、面倒なオレの面倒、押し付けられて迷惑してんのはお前、じゃねーの?」
しらっと言い切る小笠原に、良太はムッとする。
「大当たりだ! 毎回毎回、よくそれだけ問題起こしてくれるよな」
「別に起こしたくて起こしてるわけじゃないし。それに、十五人のうち、十人は工藤がやっちゃんだって聞いて逃げ出したんじゃねーか」
思わずぶん殴りたくなるのを良太はぐっと堪えた。
「着いたぞ、降りろ」
「なんか、良太、顔が怖いよ?」
車を降りた小笠原は、厳しい表情をしている良太の顔を覗き込む。
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