日本では午後五時を回ったところだから、ニューヨークは真夜中の三時頃のはずだ。
「あ、はい、明後日から根室のヤギさんに合流します。はあ、そうですか。わかりました。極力本人にも自覚させますから。はい、気をつけて。おやすみなさい」
携帯を切ると、そこはかとない寂寥感が胸の中にあって、ほんわかとした表情が途端に曇る。
工藤は週末には帰ってくるのだが、その前日には、今度は良太が、北海道に行くことになっているのだ。
見かけによらず、工藤は元同僚の下柳と同様、実はあまり金にならないドキュメンタリーを創るのが好きだったりする。
もう何年も北海道の四季を通じて自然に生きる動物たちを追うのをライフワークにしている下柳は、そのうち幾度か海を越えて北欧にまで足を伸ばしている。
今度の北海道行きは下柳が持ち込んだ仕事で、KBCテレビの三十分枠のドキュメンタリーだ。
風蓮湖周辺の動物たちが厳寒の冬を越すまでをじっくり撮ろうというものだ。
その仕事を、工藤は良太に、自分が忙しいからというだけでなく、やってみるか、と打診してきた。
無論、一も二もなく、やります、と良太は答えた。
現実には、工藤と仕事で行き違いになることが増えた。
それは仕方のないことなのだが。
「工藤の着メロ鳴り分けなんかしてんだ?」
「え…」
途端、良太は顔を赤らめる。
「仕事熱心なこった。そこまでしてると、肩こらない?」
「べ、つに、そんなの、全然」
何を指摘をされたわけでもないのだと良太は思い直し、慌てて取り繕う。
「何? どしたん? 良太、熱あるんじゃない? 顔、赤いぜ」
「く、食ったからだろ。それより、小杉さん、あと一週間は帰ってこれないってよ、お前、もちょっとしっかりしろよ。俺、明後日から北海道だし」
「へ、何で? 小杉さん、明後日くらいには帰るんじゃなかったのかよ?」
ほけっとした顔で、小笠原は良太を見た。
「やっぱ、さすがに志村さんも小杉さんがいないと、ダメみたいでさ。ああみえて、志村さん、繊細なとこあるから」
「じゃ、何、当分、俺一人で動くの?」
大きな男が、情けない表情で聞いてくる。
「だって、お前、もちょっとしたらオフだろ? 一日や二日自分で何とかしろよ」
「ちぇー、つまんねーの。良太、北海道? いいなー、俺も行きてー。スノボやりてーなー」
また能天気な事を小笠原は言い出した。
「バーカ、俺は仕事で、風蓮湖に白鳥見に行くんだよ」
「ふーん、ずっと?」
「いや、移動して、ニセコまで行く」
「いいなー」
テレビ局に向かう車の中でも、小笠原は、いいな、を繰り返している。
「お前、それよりほんっとに頼むぞ。明後日には工藤さん帰ってくるけど、あの人も忙しいから、そうそうお前の相手してらんないかもしれないし」
工藤は時間を調整して、自分が小笠原に同行する、とは言うのだが。
どうしてもという時には、秋山を頼るしかないだろう、という。
それだけ目をかけたい存在ではあるのだ、小笠原裕二。
「ったく、とっととマネージャー決めろよな」
ここのところ広告も出す暇がないので、決まるとしてもまだ先の話になる。
「俺としては、良太がいいんだけどな~」
ボソリ、と小笠原が呟いた。
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