例えラッピングのままクローゼット行きだとしても、使っているか使っていないかわからなければいいのだ、とりあえず自分が贈りたいという欲求は満たされるのだから。
だってほんとは、好きな人に何かあげたいって日だろ?
と、ここまでやってきていながら、今更ながらにグダグダと考え考え、店の中に足を踏み入れるまで五分、店の前を行ったり来たりして、ようやくドアを開けた。
時間的なものもあるだろう、客はまばらで、カップルか女性客が数名いるだけだ。
大体こんな高級ブランドの店にプライベートで入ること自体、良太には勇気がいったのだが、静かでシックな雰囲気の店内をゆっくり歩くと、やがて目当てのものを見つけた。
「これ、お願いします。あの、ラッピングもお願いします」
形も色も工藤が持っているものと割と似ているが、だからこそ好みに反することもないだろう。
ただし母親のチョコレートケーキと一緒に渡せば、とちょっと姑息なことを考えていた。
「バレンタイン用のラッピングになさいますか?」
ここの高級ブランドのスーツをビシッと着こなしたイケメンの男性スタッフが、良太に真顔でそう尋ねた。
確かにさり気なく、バレンタインデーの贈り物に、といったポップが店内のそこここに置いてある。
スタッフに指し示したのはショーケースの中でどう見たって男性用のどちらかというと渋めのサングラスだ。
海外ブランドだから、バレンタインデーにひょっとして彼女にこれをプレゼントするのだろうと思われたのだろうか。
絶対に女性が使ってはダメだというわけではないし。
いくら良太が甘いマスクとはいえ、男物を着た女性だと思われた? などということもないだろう。
いや、おそらくバレンタインデーが近いので、このスタッフは間違ってそんなことを言ってしまったのかもしれない。
でなければ、このスタッフの中では男が男にバレンタインデーにこのサングラスを贈ることも当然あり、という認識なのだろうか。
そんなくだらないことをしばし思いあぐねた良太だが、ようやく我に返った。
「いえ、ごくシンプルなラッピングで結構です」
「かしこまりました」
にっこりと手際よく、スタッフは渋めだが品のいいラッピングを施し、ブランドマークの入った小さな手提げ袋に入れて良太に手渡した。
良太は三万数千円也をスタッフに支払い、心は逃げるように、ただしあくまでも歩調は穏やかに店を出た。
自分のものならそんな大金惜しくてとても使えないが、工藤にやるとなると、これでもまだ足りないような気がする。
外の風に吹かれて、思わずほっとしたのもつかの間、ポケットで携帯が鳴った。
「はい、あ、藤堂さん、え、今、俺出先で……え?」
「オフィスの方へデータと美味しいスイーツを届けようと思うんだが、明日はバレンタインデーだからね、良太ちゃんいつ帰るの? ほら、せっかくだから良太ちゃんの顔を見て渡さないと」
例によって、である。
この人の頭の中では、一様にバレンタインデーもクリスマスも誰かにプレゼントをあげる日でしかないのかもしれない。
「あ、とそれなら、俺、実は今外苑前あたりにいて、そちらに伺いましょうか?」
「ほんと? じゃあ、お待ちしてるよ」
藤堂はほんとにいつも陽気な人だ。
あまり怒ったりしたところを見たことがないな。
「そうだ、どうせなら、何か買っていこう」
昼時だから、美味しいパンかなんか。
そうだ、浩輔さん、近くの『スヴェーリエ』のサンドイッチが好きだって言ってたよな。
鈴木さんに、ちょっとプラグインに寄ってきますと連絡を入れてから、良太は思いついた。
晴れていた空に雲が動き始めた。
日差しが遮ぎられると急に吹き抜ける風の温度が下がる。
「さっむー!」
良太はコートの衿を合わせて、プラグインへと向かった。
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