気分転換にもなるだろう。
着替えてから、携帯の電源を入れてみたが、佐久間からと小夜子からの留守電以外、入っていない。
あそこまで完璧拒否したのだ、今度こそ京助ともケジメをつけられたわけだ。
ただ、強引で自分勝手で、うっとおしくまとわりついていた暑苦しいほどの存在も実際いなくなってしまうと、少し寂しい気もする。
「ちょっとだけな」
とりあえずそういうことにしておこう。
今は難しいことは考えたくない。
今は………
「……難しいこと……って、俺、何か、えらいこと忘れていた気ぃするで」
千雪は慌てて携帯のスケジュールを確認する。
「あかんわ……高梨さんに頼まれてたエッセイ、明日までやし……」
出版社の小説の担当者を通じて、年末に依頼された仕事である。
同社から出ている月刊の女性誌の編集者を紹介され、エッセイを書いてみないかと言われた。
最初は場違いではないかと断ろうとしたのだが、ミステリーの内容とは別の、文章の美しさにマニアックなファンがいるのだ、ぜひにと熱心に頼まれ、じゃあ試しに一度、と引き受けはしたものの、何を書いたらいいかわからないまま、放ってあったのだ。
千雪はバッグを開いてタブレットを取り出すと、キーボード開いてすぐに立ち上げる。
「クリカラモンモン背負った怪老が出てくるミステリーのがおもろいんやけどな……これ、充電もつやろか」
外泊するつもりはなかったから、充電器など持ってきてはいない。
「……せや、高梨さんに頼んで明後日にしてもらう……わけにはいかんやろな」
携帯からかけると編集者に携帯を持っていることが知られてしまうのが嫌で、今まで家電か、研究室の電話以外で電話をやり取りしたことはない。
ドア口の近くにあるテーブルに置いてある電話の子機を取って、一応、高梨を呼び出してみた。
「……あ、はあ、今、ちょっと東京から離れてまして」
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