花のふる日は 41

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 何気なく観察していた千雪は心の中で静かに毒づく。
「ああ、構わない。都合を合わせよう。だが、俺のことをちゃんと話したのか? そうか、向こうも承知しているなら問題はない。ああ、わかった、助かる」
 工藤はまた携帯にかかってきた相手と話しているのだが、今度は先ほどから怒鳴りつけた相手とは違ってえらく神妙だ。
「鈴木さん、明日はお休みですか。何なら、わしが行きましょうか?」
 食器を片付けていた平造が工藤に尋ねた。
「いや、それには及ばない。俺がいない間は留守電にしておく。だが、万里子のヤツがまた勝手に事務所に行ってる」
「鈴木さんが来てくれて、事務所も落ち着いたと思っていたんですが、鈴木さん、まさか辞めるとかでは?」
 平造は心配そうに尋ねた。
「いや、郷里の母親が入院したらしい。三、四日新潟だそうだ」
「やっぱり、誰か緊急に入れる必要があるんじゃないですか。大学の方の募集はどうですか?」
「ダメだ。ほんのたまに連絡があるが、面接で引き返していく」
「そうですか……やっぱり、社長の素性話さないといけませんかい」
「後で知って、途中で辞められるよりはいい」
 二人の会話は何やら深刻そうだった。
 聞きたくなくても聞こえてしまう距離にいるから仕方がないが、どうやら宮島教授が話してくれた工藤の生い立ちが関係しているらしいと、千雪は勝手に想像する。
 指定暴力団中山組組長の甥、て、ちょっとそこいらのヤクザの名前とはやっぱ違うわな………
 ここでなるほど、やっぱりねと相槌を打つこともできず、千雪は黙ってコーヒーを飲む。
 面倒なことに、今ここにいる自分は工藤の素性を知っているはずもないことにしておかねばならないのだ。
 もっとも工藤は工藤で、目の前にいるのが以前一度顔を合わせたことのある、しかも宮島研究室の小林千雪本人だという確信を九〇%以上持っていたので、ポーカーフェイスを装う千雪のことを興味深深で見ていた。


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