「ああ、ただ小田が、万里子のマネージャーやってもいいってヤツを紹介してくれることになった。俺の素性も話した上でOKを取り付けたらしいから、しばらくは手が開いている時は事務所の留守番も頼むことにする」
「さようですか、とりあえずはよかったですな」
「まあ、会ってみなけりゃ何とも言えないが」
平造が食器をトレーに載せてキッチンに引っ込むと、工藤と千雪の間にしばし沈黙の時間が過ぎた。
「何のレポートをやってるんだ?」
唐突に工藤が尋ねた。
「……………まあ、芭蕉、とか?」
「ほう? 古文の研究か?」
「まあ、そんなとこ」
工藤はじっと千雪を見つめ、ニヤリと笑う。
「いい加減、名前くらい教えてくれてもよくないか? ああ、俺は工藤高広」
「強姦魔に教える名前はあれへん」
千雪はきっぱり言い返す。
「未成年じゃ、ないよな?」
「やったら、またあんたの罰状が上乗せされたんやけどな」
「口の減らないヤツだな。どうだ? 俳優とかやってみないか? 俺が大々的に売り出してやるぜ? その美貌にその度胸なら、あっという間にスターダムにのし上がること請け合いだ」
テーブルの向こう端から、工藤はそんなことを言い出した。
「悪いけど、全く興味ないし。昔からその手の勧誘にはうんざりしてる」
すると工藤は「なるほどな」と妙に納得したように頷いた。
千雪は少し怪訝な顔で工藤を見たが、工藤は小林千雪の人相風体のギャップの理由をそれで納得したのだ。
「ブランデーでもやるか?」
「遠慮しとく。レポートあるんで、失礼します」
こんなエロオヤジの相手をしている暇はなかったのだと、千雪は立ち上がり、ちょうどキッチンから出てきた平造に、「ごちそうさまでした」と声をかけた。
「あとでお茶をお持ちします」
「おおきに」
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