花のふる日は 48

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「朝飯くらい食う時間はあるぞ。九時には出る」
 食事をするような気分ではなかったが、せっかく平造が用意をしてくれたオニオンスープ、パンケーキにヨーグルト添えの食事を見ると、急に腹が空いてきた。
 どちらかというと普段は食が細い方であるが、美味いものは別だ。
 千雪がしっかり平らげ、コーヒーを飲んでいると、この別荘の電話が鳴った。
「はい、……先生って、どちらにおかけですか? こちらは軽井沢の工藤ですがどちら様? ……は? 講栄社? 高梨? 原稿?」
 途端、自分宛だとわかって千雪はぎょっとした。
 まさか高梨が電話をかけてくるとは思わなかったのだが、表示された番号にコールバックしたらしい。
「ひょっとして、あんたあてじゃないですかい?」
 平造が千雪を振り返って聞いた。
「俺です、すみません」
 千雪は平造から受話器を受け取って、電話に出た。
「ああ、すみません、今、知人の別荘にお世話になっているもので、………はい、わかりました。これから東京に戻りますので、戻ってからまたご連絡します」
 受話器を置いてから、どう言い訳したものか、面倒だなと千雪は思う。
「社長、今夜は高輪の方にお帰りで?」
 平造が工藤に尋ねた。
「そうだな、また、連絡する」
 工藤はコートを取った。
「そろそろ行くぞ、先生」
 さっきの電話の内容から茶化す工藤に、千雪は何か感づかれたかもしれないとは思うものの、この際そんなことは構っていられなかった。
「おおきに、お世話様でした」
 平造に挨拶して千雪は工藤の車の助手席に乗り込んだ。
 工藤は工藤で、平造が口にした内容から百パーセント小林千雪本人だと確信し、一度は諦めかけた小説の映画化を再び頭に思い描きながら、一路中央道を東京に向けて車を走らせた。
 


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