昼前には東京に入り、乃木坂にある工藤の会社で一緒に降りた千雪は、タクシーを拾ってアパートに帰り、慌てて着替えて研究室に出向いた。
「おお、小林くん」
そこでちょうど廊下の向こうからやってきた宮島教授に出くわした。
「探していたんだよ、君を。実は昨日、警察が来てね……」
教授がそう話しているうちに、背後から声がかかった。
「小林千雪さんですね」
振り返ると、一目で刑事ですというような顔をした中年の男と、その後ろにはよく知っている刑事にしては甘いマスクの若手の刑事が立っていた。
千雪は幾度か捜査協力をしたのだが、警視庁捜査一課の刑事、渋谷である。
連れて行かれたのはかろうじて取調室ではなく、会議室ではあったが、千雪は任意同行という名のもとに警視庁へほぼ強制連行された。
気になるのは、厳しい顔の刑事の横に立つ渋谷が何やら難しい表情をしていることだ。
名探偵登場とかぼさぼさ頭に黒渕メガネ、それにダサいジャージという、千雪にしてもちょっと気になる程度のことで、まさか連行されるとは思っていなかった。
「一昨日の午後十一時頃、あんた、どこにいました?」
そしていきなりこれである。
「あほらしい、任意ですよね? 黙秘権を行使して帰らせてもらいます」
立ち上がりかけた千雪を、厳しい顔の刑事がその肩を押し戻すようにしてまた椅子に座らせた。
「西岡さん」
渋谷が厳しい刑事の行為を見て、さすがに何か言おうとしたが、西岡と呼ばれた刑事はそれにはお構いなく千雪を睨みつけた。
「あんたが著名人だということを考慮して、こんな場所を選んだんだ。何なら、取調室に来てもらってもいいんだぞ」
「今度は脅しですか?『名探偵登場』とかいうおちゃらけたメッセージや、たまたま似通った人相風体というだけで、俺をここに連れてきたわけではないですよね? 渋谷さん。バットから俺の指紋が出たとか、その外に俺を連行した根拠があるわけですか?」
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