「さっさと起きろ。俺は出かけるんだ」
「え………何であんた、部屋に………!」
やっと事態に気づいて、千雪は喚く。
「いいか、お前は、無自覚で人を蠱惑するくせに、無防備すぎる。だから襲われるんだ」
「勝手なこと言いな!」
「だったら、何で鍵をかけてない」
「え………」
今度は千雪は自分に唖然とする。
鍵のことなど全く頭から頓挫していた気がする。
つまり警戒心ゼロだったということだ。
「いいから起きて、契約書にサインをしろ。俺はあと三十分で出かける」
言い渡すと工藤はたったか部屋を出て行く。
「えらそうに!」
「さっさと起きてくださいよ、先生」
「バカにしいなや!」
投げつけた枕は、閉められたドアに当たって跳ね返った。
午前中、千雪はまた薪割りの手伝いをして過ごし、サンドイッチとカフェオレで平造と一緒にゆったりと昼を過ごした。
工藤は千雪がまだ朝食のコーヒーを飲んでいるうちに、契約書にサインをさせ、東京にとんぼ返りしたので、屋敷にはまた二人だけである。
「俺、工藤さんの大学の後輩で」
工藤の会社でやっぱり俳優かモデルをやるのかと平造が聞いたので、千雪はどう答えたものかと逡巡しながら言葉を選んだ。
「モデルや俳優とかは関係なくて、学生なんやけど、物書きもやってて、今度俺の小説を工藤さんが映画にしはるいうことで、さっき契約書にサインして」
「ほう? 小説家ですかい? それで出版社とかから電話があったんじゃな」
「あ、はあ、すみません」
工藤に知られないようにこそこそしてましたとも言えず、千雪は恐縮した。
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