どこかから聞こえてくる声が煩いので、千雪は身体を捩って眉を顰めた。
「起きろっ、こら」
次にはゆさゆさ揺すられて、ようやく少しだけ目を開ける。
「メシ、食いっぱぐれるぞ! 千雪」
ベッドの横で仁王立ちになっている京助をみとめてからだを起こし、勢い昨夜の記憶を反芻した千雪の脳髄まで怒りが沸騰し、京助を怒鳴りつけた。
「もう、当分俺の半径三メートル以内に近づくな!」
すっきりした顔で、さっさと身支度をすませて腕組みしている京助に、何か文句を言わなくては気がおさまらない。
「何でご機嫌斜めなのかな? 千雪ちゃんは」
ニヤニヤと厚顔無恥な笑いを向ける京助に、ますます千雪はむっとする。
千雪は最初に案内された自分の部屋のベッドにいた。
京助がこの部屋に運んだのだろうが、昨夜、京助に引きずられるように二人してシャワーを浴びたところから後の記憶がほとんどない。
その前の記憶はたった今よみがえった。
「俺が誰を惑わせたいうんや! アホンダラ!」
「おーや、感じまくっていたわりに俺の言ったこと覚えてたのかよ」
ニヤニヤと京助は腕組みをして千雪を見おろしている。
「着替える! 出て行けよ!」
「この期に及んで、んな恥じらわなくても。夕べはあんな燃えたのに」
「うるさい! 誰が恥じらうか!」
千雪は枕を投げつける。
「ハハッ、んじゃ、ダイニングでお待ちしてまっせ、千雪ちゃん。今日はみっちりスキー扱いてやるから覚悟しとけよ」
ドアを閉める間際、色悪じみたウインクを残して京助は消えた。
「とっとといてまえっ!」
喚いても京助に流されて昨夜乱れに乱れさせられた自分への憤りは消えてくれない。
確かに、今更なのだけれど。
『うまいことやったはるんやろうけど』
佐久間が言っていた。
『あれだけの男や、一人に絞れ、いう方が無理いうもんやな~』
言われて何となく納得していた。
『いつもみたいに女の子うじゃうじゃ連れてくるんだとばっか』
公一の言葉が裏打ちしているというものだ。
絶対、京助なんかの思い通りになるものかと思っていたのに。
そんな決意もふっとばされて、悔しいばかりだ。
「ドアホ、エロアホ、京助のやつ!」
半分やけになりながら着替えると、千雪はバスルームに向かう。
「金輪際、絶対流されるもんか!」
鏡に映し出される男らしくない柔な、実のところは彼を前にすれば十人が十人その美しさにため息ものだろう自分の顔を見つめ、新たな決意に拳を握るのだった。
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