「そうかて、先輩わからんかしれん思て。なんや先輩、また小食やな。せめて天ぷらうどんにしはったら?」
「俺が何食おうとお前に関係あれへんわ」
「あかんがな、ただでさえ細いのに、ほな、出血大サービスや」
ほい、と佐久間は自分が食べていた天丼のえび天をひとつ千雪のうどんの上に載せた。
「何すんね! 今日はあっさりしたもん……」
千雪は顔を上げて佐久間を睨みつける。
「遠慮はいりまへんよって、ビシバシ食べて食べて」
「いつ遠慮した? 人の言うこと聞け!」
「はあ?」
ニカニカ笑い、千雪の怒りもどこ吹く風の佐久間は味噌汁をすすり、大盛天丼をがつがつと平らげていく。
「せえけど、さすが、京助先輩いーひんと周り静かやなー」
あっと言う間に食べ終え、プラスチックの茶碗の茶を一気に飲み干した佐久間は、ようやく人心地ついたようにのんびり周りを見回した。
「実習で手術に立ち会うやなんて、俺は頼まれてもごめんやけど」
佐久間の無遠慮な言葉に、うっと、うどんの最後のひとすすりを千雪は危うく飲み込んだ。
言葉だけで思わず血の色を想像してしまう。
「人がまだ食うてる時に……」
氷のまなざしを佐久間に向けながら、千雪は茶をすする。
「そんなんで、先輩、よう殺人事件なんか書かはりますな」
「ドロドロしたんは嫌いや」
「そういえばそうか。毒飲んで血ぃ吐いた、みたいな描写あんまりないもんな、先輩の……あ、ちょ、待ってーな、先輩ぃ」
暢気そうに腕組みをする佐久間の話を最後まで聞かないうちに、千雪はトレーを持って立ち上がった。
「もう、血みどろなこと言いませんよって、堪忍してくださいよー」
「……お前もおかしなやっちゃな」
並んで返却口に食器を戻しながら、千雪はボソリと口にする。
「俺なんかとつるまんかて、お前、ダチおるやろ」
「俺、昼は先輩らとって決めてますよって」
「勝手に決めるな」
千雪はたったか学食を出る。
「何、怒ったはんの? ほな、コーヒーおごりますよって、機嫌直してーな、先輩」
「何でお前におごられなあかんね」
「ツレナイこと言わんと、カフェテリアいきまひょ」
ぐいぐいと千雪の腕を引っぱって佐久間が連れて行ったのは先ごろ新しくできたカフェテリアだ。
すばやくちょうど空いたテーブルを見つけると千雪を座らせる。
「お待たせ~」
やがて佐久間は紙コップのコーヒーと千雪リクエストのカフェオレを手に、千雪がぶすっと頬杖をついているテーブルに戻ってきた。
「いっつもほら、京助先輩と一緒やと、周り女の子の視線で取り囲まれてるし、込み入った話もでけんし」
「いつでも平気でべらべらしゃべっとるように見えるぞ、お前」
何を言っても暖簾に腕押し、千雪はイラっと佐久間をまた睨みつける。
「ははは、いや、ほんまの話、先輩、彼女いてはらへんですやろ?」
「それがお前に何か迷惑かけたか?」
「またまたそんな冷たい~視線、いや、京助先輩には悪いんやけど、この話は千雪先輩だけにってことで、明日の土曜の夜、合コン行きまひょ?」
「合コン? 誰が行くか」
よもやそんな話をしたいがために、コーヒーをおごられたとは思いもよらなかった千雪は、一刀両断に返した。
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