氷花3

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「そんな、もちょと考えてみてくださいよ。あと十日でクリスマスイブでっせ? クリスマスといえば、恋人同士で過ごすのんがお約束ですがな。はよ相手見つけな、間に合いまへんわ」
 佐久間は真面目そうな顔で力説する。
「俺はあいにくクリスチャンと違うし、大体がイブを恋人同士で過ごすやなんて、誰が決めてん。何も関係あれへんわ」
 千雪は辛らつに返す。
「これやからな。俺、ほんま、先輩のこと心配ですねん。先輩も知ってはるやろ? 影で先輩がどない噂されとんのんか」
「ネクラだ、変人だ、クサそうだ? そんなん言われてる俺を合コンなんかに連れてってどないすんね」
「せやからです」
 ぐい、と顔を寄せて、佐久間はまくしたてる。
「俺が上から下までコーディネイトします。そのボサボサの頭といい、野暮ったいその黒渕メガネといい、よれよれのジーパンといい、そのスニーカーならぬ運動靴といい、このジャケットならぬ鼠色のスエットといい、そら、俺は現代の金田一耕助やて、気に入ってるんでっせ? けど、女はそうはとってくれまへんで。いくらなんでも、かまわなさ過ぎです。俺に任せてください、悪いようにはしませんよって」
「断る」
 即答する千雪に、佐久間ははああ、と大仰なため息をつく。
「何でです? 先輩かてええ年の男やし、アッチの方かて、一人では寂しいもんですやんか」
 ちょっと声を落として、佐久間はにやりと笑う。
「ここいらで彼女でもこさえて、あの、歩くだけで女が落ちるいう、京助先輩を見返してやりましょうよ」
 歩くだけで女が落ちる、そんなあきれはてた噂を千雪も耳にしたことはある。
「何であんなやつがそないええんや」
 思わず知らず千雪の口から悪態がこぼれる。
「そら、頭よし、ルックスよし、家柄よし、加えてあの豪胆さがたまらんのんと違いますか? 女からすれば、あわよくばセレブ婚、でなくても彼女、でなくてもセフレ、ってな具合で、並みのスターごときじゃ太刀打ちできない男ですやん。まあ、今までに京助先輩がつきおうた女も、そんじょそこいらの女と違いますしな、スーパーモデルの何たらとか、何とか財閥のお嬢とか、五所乃尾流家元の娘とか」
 佐久間は調子にのって、千雪にとってあまり愉快なものではない言葉を並べ立てる。
「まあ、うまいことやったはるんやろうけど、次から次へと女は吸い寄せられるんや」
「うまいこと……な」
 千雪の胸の奥の方で苦いものがざわめき始める。
「そらあれだけの男や、一人に絞れ、いう方が無理いうもんやけどな~」
 一人に絞れという方が無理、か。
 千雪は心の中で呟く。
『お前は全部俺のもんだ。誰にだって渡さねえ…』
 そんな言葉を京助が口にしたのはついこの間のことだ。
 勝手なこと言いよって!
『遊びは裏切りじゃねぇからな』
 でも笑いながらそんなことも言っていた。
 ちょっと冷静になって考えてみると、京助はやはり、うまいこと、やっているのだ。
 どれほど情熱的な言葉を千雪にぶつけようと、別のところではまた別の言葉で女を手玉に取っている、ということだ。
 胸の中のざわめきが一層重くなり、息苦しささえ覚えて千雪はカフェオレを飲み干した。

 


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