氷花20

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「そう、諦めの悪い叔父は多分、ライバル、と思ってたんだろう小林教授のことも調べたらしく、教授の書かれた本とか持ってて、この人なら夏緒さんを任せても仕方ないか、なんて負け惜しみ言ってたが、ちょうど京助が高校生の頃だよ、叔父がたまたま教授の本を持ってうちに遊びに来ていた時、その本を読んだらしくて、えらく感化されてついに京助は京都に行ったというわけ。で、巡り巡って今君らがこうしてつき合っている、なんて、面白いものだねぇ」
 紫紀の言葉は一々ひっかかるのだが、確かに、ここに今自分がいるのも面白い巡りあわせだと、千雪は思わないでもない。
 それから紫紀は、聞いてもいないのに自分のことを話し始めた。
 別れた妻とは学者同士、留学中に知り合い、息子も生まれてニューヨークで幸せに暮らしていたのだが、父親の具合が悪くなり、帰国して一家して綾小路に入った。
 だが、学級肌の妻は古い家の跡取りの妻、会社の役員の妻としての付き合いよりも研究室を選び、結局、二人は円満離婚し、息子は綾小路で暮らすことになった。
「彼女は最近、学者と再婚したんだが、うちの父親は快復して前より元気、俺の方は親の会社に入らざるを得なくてパリに飛ばされ、忙しくて残念ながら次の相手なんか見つからなくてね」
 妙に色っぽい目を向けられ、そういった視線を向けられることにほとほと嫌気がさしていた千雪は眉を顰めて睨み返す。
「あんた、ここで何やってんだ!?」
 そこへ飛び込んできた怒鳴り声。
「おいおい、久々会った兄貴に対してその言い草はないだろ? 仕事で疲れきって、数ヵ月ぶりにもらったバカンスだってのに」
 紫紀は振り返りもせずに言った。
「そんな貴重なバカンスに、何だってわざわざこんな辺鄙なとこまでくる必要がある?!」
 京助はさらに怒鳴りつける。
「辺鄙ってそりゃ、お前がニセコに行ったと聞いて、今度はどんな女の子たちを連れてきたのかと、来てみたらこんな美人、こっそり隠してたってわけだ」
 茶目っ気のある紫紀の表情とは対照的に京助の形相は段々鬼のそれになる。
「ちょっと来い!」
 京助は紫紀の腕を掴んでキッチンを出た。
「おい、おい……」
 京助はリビングの端までくると、ニヤニヤ笑っている紫紀を睨みつける。
「言っとくが………あいつに何を言ったか知らんが、ちょっかい出したりしたら、黙っちゃいねぇからな!」
 そんな京助を紫紀はフンと鼻で笑った。
「なるほど、名探偵コンビ、とんでもないミステリーが隠れていたってわけか。四年以上も、俺にも会わせなかったわけだ、可愛い可愛い千雪ちゃん……」
 京助はカッとなって、紫紀の胸倉を掴み、壁に押しつける。
「わかってるなら、話は早い。いいか、誰も、口出しも手出しも容赦しない。兄貴であろうが誰であろうがだ」
 紫紀は笑みを浮かべたまま、京助を逆に睨み返した。
「完全にあの坊やにイカレてるな。お前こそ、小林千雪を壊すなよ」
「んなこた、わかってる!!」
「危ないもんだ」
 二人はしばし睨み合う。
「おい、京助、何やってんね!!」
 気になってやってきた千雪は、そのようすを見て声を上げる。
 京助はようやく紫紀を離した。
「何でもねぇよ」
 吐き捨てるように言うと、京助はたったかキッチンに戻っていく。

 


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