メリーゴーランド101

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 あれだけ猛のことを愛していたはずの小夜子も、時が経てば思いも変わるし、いつまでも同じ場所にはいられない。
 無論猛の死は乗り越えたというわけではないだろうし、ただ、前へ一歩進んでいくだけなのだが。
 紫紀もそうだ。
 元の妻麗子とは円満離婚だったという。
 人の思いは時を経るにつれて変わっていくものなのだ。
 京助もそうだ。
 自分にひどく固執しているように思える京助の心のうちも時が経てば変わっていくだろう。
 いきなり離れることはできなくても、少しずつ距離を置いて行けばいいだろう。
 そう言えば、大長とはちゃんと話をしたのは今夜が初めてだった。
 母の夏緒の絵をいいと言ってくれたのはよかったと思うのだが、結局、大長にとっては自分は小夜子の従弟で原夏緒の息子というだけなのだ、と理解した。
 あれだけ大きな会社を動かしている人間だから、きっといいものを見る目は嫌でも養われているんだろう。
 少なくとも俺のことは、速水の言う探偵小説作家くらいにも認めてへんかったいうことやな。
 まあ、小説や探偵小説なんかに興味のない人間なんか五万といるやろけど。
 仮に京助がもし女で、俺がその彼氏や言うて挨拶に行ったとしても、端も引っ掛けられんかったくらいなとこやな。
 千雪は自分で例えておいてキモイ、と自嘲する。
 まあ、その分、大が読んでくれてて、曲がりなりにも名誉挽回させてもろたからええか。
 通り過ぎていく夜の灯りを車窓の向こうに見つめながら、千雪がそんなことを考えているうち、珍しく京助は口を閉ざしていた。
「兄貴がさ」
 ようやく京助が口を開いたので、千雪は京助を振り返った。
「俺のマンション、兄貴の持ち物なんだけど、下の階が空いたらしいんだ」
「へえ」
「お前、引っ越さねぇか?」
「は?」
 あまりにも予想外の話に、千雪は訝し気に京助を見上げた。
「お前なら、小夜子の従弟で家族みたいなもんだから、家賃とかいらねえし、物が増えたって言ってただろう」
「それはお前が増やしたんやないか」
 勝手にモノを増やしたのは京助の方だと千雪は抗議した。
 確かに本は次から次へと増殖しているが。

 


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