メリーゴーランド107

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『まだ、冷戦状態なん? 三田村と桐島さん』
『せやな、桐島さん、ピアノのことで煮詰まってるらしいから、しゃあないな』
『そうなん。研二くんは元気?』
『えろ、忙しいらしい』
 千雪が小夜子と紫紀の披露宴の菓子を頼まれたことを告げると、『そら、大変やけど、すごいわ!』と返ってきた。
『十一月の後半やけど、京都のおっちゃんらにも助っ人頼んだみたいやから、やさか総出で向かうみたいやで。小夜ねえのとこで試作品見たけど、芸術品や』
 見たいという菊子に、当日までは社外秘だが、当日には画像を送る、と返信した。
 笑みを浮かべながらラインでやり取りをしていた千雪は、ふと視線を感じて顔を上げた。
 案の定、じっとこっちをみている佐久間の目と合致あったが、佐久間はすぐにそらしてしまった。
 佐久間が何を考えているのか知らないが、もうずっとそうやって敬遠していてほしいと千雪は思う。
 変なヤツ。
 俺の小説のファンなのはありがたいが、必要以上に近づいてこられるのはごめんなのだ。
 特に今の千雪には、何となく、佐久間の相手をしてやるような精神的余裕がなかった。
 停滞していた。
 学生の論文も目で追っているのだが、ちゃんと頭に入ってこない。
 探偵小説も一行書いてそれから進まない。
 幸か不幸か、京助は教授のお供で学会に出向き、帰ってきたと思ったら解剖に駆り出されて忙しい毎日を過ごしていた。
 律儀にも京助が作り置きして冷凍してくれていたカレーやシチュー、サラダや煮魚などがタッパーに保存されて冷凍庫に入っていて、口に合わないものや美味くないものを口にしなくても千雪が飢えることはなかった。
「有難過ぎるわ、ほんま………」
 曲がりなりにも炊飯器くらいは使えるので、コメを炊きさえすればいいのだ。
 早めにアパートに戻ってきた千雪だが、何となく気もそぞろに時間を持て余し、フラッと出かけた先は、乃木坂の青山プロダクションだった。

 


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