メリーゴーランド108

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 この日を境に、千雪の中で何かが終わったような、そんな気がした。
 江美子の存在が消えたことはまだ実感としてない。
 今もこの皆の元へ、千雪の元へ笑顔で現れるような気がしてならない。
 この一連の出来事は千雪の夢で、覚めることがあるのなら。
 あまりに突然の事実を受け止めきれないのは千雪だけではない。
 だがこれが動かしがたい事実であることは、どこかでわかっている。
 同級生たちとの絆はこれからもさほど変わらないかもしれない。
 この街も家もこれからもここにあるだろう。
 だが、江美子がいなくなり、研二もこの街を去り、父も母もとうにない。
 千雪の家族があった時も、江美子がいた時も、研二がいた時ももはや思い出の中でしかないのだ。
 それらは温かく、千雪を育んでくれていた大切なものだ。
 だがやがて温かい記憶として遠くなるのだろう。
 いろんなことが変わっていく。
 それでも前に進まなければ。
 
 
 

 三田村と桐島は江美子がくれたようなこの機会に、もう一度話をすると言っていた。
 研二はこちらの店の職人たちとの打ち合わせはほぼ終わり、あとは仕入れや当日前後のスケジュールなどを調整してから東京に戻るらしい。
 辻はこれから車で戻ると言った。
 研二が戻り次第、向こうで逢うことになった。
 千雪は口には出さなかったが、京助がいてくれたことに、ひどく感謝した。
 皆が帰ったあと、京助はそんな千雪をただ抱きしめていた。

  
 

 東京に戻ると、教授の論文の手伝いやら雑誌連載の締め切りやらに追われて、図らずも忙しくなり、千雪もぼうっとしている余裕はなくなっていた。
 京助は京助で、自分の論文提出期限が迫り、互いにひたすらパソコンに向かう日々が続いた。
 お陰で千雪は江美子のことを考える暇もなく、いや、東京にいると江美子は京都で今も暮らしているかのように錯覚することが多かった。
 江美子の子供は退院して久美子と名づけられ、江美子の母の手で大切に育てられていると菊子がラインで知らせてきた。
 江美子の生まれ変わりのような赤ん坊のお陰で、少なくとも沢口家にとって哀しみに浸る暇もなく、常に小さな命に振り回されているようだった。

 


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