メリーゴーランド108

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「あら、いらっしゃい、千雪さん」
 笑顔で出迎えてくれたのは、業績は右肩上がりなくせに、万年人手不足で常に仕事に追われている社長の工藤を癒してくれる会社にとっては貴重な存在である鈴木さんだ。
「今ちょうどお茶にしようと思っていたところなんですよ」
「あ、ほな、これ、シュークリームです」
 千雪はここに来る途中のパティセリーの紙袋を鈴木さんに渡した。
「まあ、ありがとうございます。どうぞ、お座りになってくださいな」
 珍しく工藤はオフィスにいて、しかしいつものごとく難しい顔をして電話をかけていた。
 ポケットの携帯が鳴ったので取り出してみると、珍しい名前が画面にあった。
 それも自分で入れたのではないから、正月の飲み会の時にでも本人が入れたのだろう。
「久しぶりやな、辻、どないした?」
「暇やし、ええ天気やから、かけてみた」
「何やそれ」
 千雪は笑った。
 横浜の大学を出た辻は、在学中バイトをしていた横須賀の中古車の会社に就職し、今もずっと同じアパートに住んでいるらしかった。
「超珍しい、アメ車が手に入ったよって、河原町あたり走ってみよ思て」
「帰るんか?」
「盆に忙しうて戻れんかったから、オカンにいっぺん顔見せ言われとおる」
 辻は高校時代まで、その界隈では名前の知られたヤンキーの頭で、集団でバイクを乗り回したりもしていた。
大学進学で横浜に来た当初はそんな顔を見せていなかったようだが、そのうち腕のたつ仲間と知り合い、暴れないバイク乗り仲間でよくツーリングに行ったりしていたらしい。
「そうか。なあ、研二がこっち来てるん知っとったか?」
「研二が? いや」
 千雪は研二が離婚したことを告げ、ちょうど東京出店の話がもちあがり、この秋から有楽町のビルで支店長だと簡単に説明した。
「そらまた、急展開やな」
「今度、研二が落ち着いたら、三田村とかと一緒に飲み行かへんか?」
「おう、研二の新しい門出祝いちゅうやっちゃな。ほな、また知らせてくれ」
 高校時代、ヤンキーという噂のせいで周りから遠巻きにされていた辻だが、研二とは何故か言葉を交わしていたのを、千雪は覚えている。
 二人ともガタイがでかく、腕に自信ありという者同士だったからかどうかはわからないが、辻にとっては研二は数少ない友人だったのではないか、と千雪は思っている。

 


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