「おもたせですけど」
鈴木さんがシュークリームとコーヒーを持って来てくれた。
「おおきに、ありがとうございます」
工藤の電話はまだ終わりそうになかった。
「今度、ひょっとしたら新しい方が入社されるかも知れないそうなんです」
鈴木さんは嬉しそうにそんなことを言った。
「ほんまですか? よかったですね」
「ええ、今そのことで小田先生とずっとお話されていて」
小田は工藤の大学時代の同期であり、この会社の顧問弁護士でもある。
そのことで、というと、また小田絡みでの入社ということだろうか。
広域暴力団大手中山組の組長というのが、縁は切っているが工藤の伯父にあたる。
この会社や工藤は全く関係がないわけなのだが、血縁ということで警察にも目を付けられているし、新入社員の面接の際、工藤がその話をすると、大抵学生は回れ右で帰ってしまい、人手不足はなかなか解消されないようだ。
鈴木さんの話によると、入社してから事実を知って辞められるよりはいいという理由から、工藤は最初凄んで見せるらしい。
「凄まんでも十分オーラが出てるわ」
千雪はボソリと口にする。
シュークリームを齧っているとまた携帯が鳴った。
研二だった。
「お疲れ。え? ああ、今青山プロダクション、映画のプロデューサーのとこや」
デザイナーとも話し合い、箱などのデザインも決まって、菓子の方は紫紀から絶賛されたので、店の職人らと打ち合わせをして準備を進めるために一旦京都に戻るのだと言う。
「そうか。辻も近々そっち帰る言うとったで。なんか俺も帰りとなった」
この夏も小夜子のこともあり、何だかだと忙しく京都には戻っていない。
戻ったら辻らと飲みに行く話をして、携帯を切った。
「何だ? 暇なのか? 先生」
ようやく電話を終えた工藤がデスクを立ってやってきた。
「そういう嫌味な呼称、やめてください」
何かあと一言言ってやりたいところだったが、向かいに腰を降ろした工藤の顔には疲れが滲み出ていた。
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