「うーん、それは俄然お会いしたくなりました。というか、頓挫した和菓子職人は、コンテストで優勝をおさめた経験もある著名な方でして、最初はぜひにと思っていたのですが、店のレイアウトもコンテストの優勝を大々的に売りにして、その方の写真を大きく掲げるという、百歩譲ってそれはよしとしても、一般的な菓子より五割がた高い価格設定にも関わらず、実は店頭に置く菓子の材料はコンテスト優勝の菓子より質を下げたものを使用するという話を聞きまして、これはちょっと目をつぶれないということになり、結局白紙となったわけです」
話を聞いていると、芝は誠実な人間のようではあるし、本物を見極める目を持っているとも思われた。
「わかりました。とにかく友人に話はしてみますけど、会うかどうかはわかりませんよ」
「いや、ぜひよろしくお願いします」
芝は深々と千雪に頭を下げた。
地下鉄を乗り継いで半蔵門線渋谷駅に着くと、千雪は階段を上がってハチ公を目指した。
既に研二と井原は来ていて、手を振った。
「三田村は?」
「五分遅れるてラインきた」
千雪が聞くと、研二が答えた。
「菊ちゃんから、江美ちゃんと住田は今夜は遠慮するて」
続けて研二が言った。
「そうか。江美ちゃん大丈夫なんか? 無理して来たんちゃうんか?」
千雪は急に心配になった。
「落ち着いとるし、大丈夫やろ」
研二がほほ笑んだ。
「ああ、いた! もう、わかれへん、渋谷とか」
そこへ菊子が文句を言いながら到着した。
「ホテル近いんちゃうの?」
千雪が聞くと、「出口一つ間違うたら、変なとこ出てしもて」と菊子がため息を吐いた。
「お、リーマン三田村が来たで」
井原が階段を上がってくる三田村を見つけた。
三田村はスーツでビシッと決めている。
「お前が来ぃへんとどこ行ったらええかわかれへん」
千雪がぼやくと、三田村は呆れた顔をする。
「お前かて東京もう何年や」
「渋谷なんて人の多いとこ滅多に来いひんわ」
「これやからな、お前は」
三田村がみんなを連れて行ったのは、こじゃれたワインダイニングだった。
「すてきやないの。大人な感じ」
店に入るなり菊子が言った。
「ええやろ。居酒屋とかはうるさいし」
「京助さんは来はらへんの?」
菊子が千雪に聞いた。
「いつもいつも父兄なんかいらんやろ」
千雪の言葉に菊子が笑い転げる。
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