メリーゴーランド113

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「おい、言っとくが、お前のそのスピーカーみてぇな口で千雪のことをバラシやがったら、それこそただじゃおかねえからな。当然お前の色っぽい彼女にもだ」
 京助はただでさえいろんな事実に頭がパニクっている佐久間に凄んで見せた。
「は、はあ! 肝に銘じます!」
 ペコリと頭を下げると、佐久間はそそくさと二人の前から姿を消した。
「おい、大丈夫か、後輩くん」
 佐久間のすたこらさっさな後ろ姿に目をやりながら、速水が呟いた。
「フン、あれで、千雪の小説のファンだし、千雪にも脅されて、俺にもあれだけ言われりゃいい加減目が覚めただろ」
 京助は冷めたコーヒーを飲み干すと、立ち上がった。
「で、どこ行くって?」
 速水も続いて立ち上がると、最初の話に戻った。
「まあ、近場ってか、軽井沢くらいしか、ねぇな」
「へえ、今ならいい季節だしな。いつ行くんだ?」
「ちょうど休日が続いてるだろ、あのあたりしきゃねぇだろ」
 次の週末でもいいが、とにかく千雪の気分次第ってとこだな、と京助は内心思った。
 その頃、千雪は月刊誌の連載原稿にかかりきりで、部屋に閉じこもっていた。
 翌日は講義が一コマあるので、とにかく今日中にあげなければと必死でキーボードを叩いた。
 今村と言う男性編集者は未だに千雪の、携帯は嫌いだからもたない、というウソを信じていて、律儀に家電に電話をかけてくるのだが、アパートを訪ねてきたのは後にも先にも一度きりだ。
 締め切りをかなりオーバーしてしまった時で、チャイムが鳴って顔を出したのが京助だったのだが、今村は佐久間と同様、千雪のコスプレを信じ切っていたし、よもや二人がどうのなどと考えるべくもなかったようだ。
 その時も、千雪が臭そうだの何だのと信じていたらしい編集者は、玄関でじっと待っていて、京助経由でデータを受け取って帰って行った。
 噂を鵜呑みにして、何ともバカな話だと京助は言った。
 千雪の策略はつまり未だに成功しているわけだ。
 食材を持って京助がやってきたのは夕方だった。
 いつものように何も言わずにキッチンに立って、おそらくろくな食事をしていないだろう千雪のために、オムライスにサーモンと玉ねぎのカルパッチョなどを作り、さらに根菜を使った煮物を並行して作っていた。
 言葉もなく一緒に食事をした後、京助は食器を洗い、炊飯器のご飯を一回分ずつラップでくるんで冷凍庫に入れ、煮物もタッパに入れて冷蔵庫にしまう。
 それから千雪の邪魔をすることなく、京助はソファで眠ってしまった。


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