夢中になっている時の千雪は書いている話のこと以外考えていないのだが、ようやく何とか書き終わり、データを送ると、はたと京助がそこにいたことを思い出し、そういえばというように食事を作って食べさせてくれたのだと、今さらながらに有難くも申し訳なく思った。
無精髭はそのままだし、おそらく疲れていただろうはずなのに。
ふう、と千雪はため息をついたが、結局のところそのままベッドにダウンして眠ってしまった。
「おい、起きろ」
翌朝、寝ざめの悪い千雪の毛布を引っぺがして、京助が言った。
「とっととシャワー浴びて来い」
ようやく起き上がった千雪は半分眠ったまま風呂へと向かった。
「ちゃんと食ってから出かけろよ」
千雪が風呂から出ると、既に身ぎれいにしてシャツにタイまで結んでいる京助は、食べ終わった食器をシンクで洗っているところだった。
「学会?」
「大阪」
そう言うと洗い物を終えた京助は振り返り、「次の週末、お前、何か予定あるか?」と聞いた。
「次? うーん、あれへんと思う」
小首を傾げて千雪は答えた。
「研二や三田村とか、ダチの予定も聞いておけ。ちょっと温泉にでも連れてってやる」
「え………」
意外な言葉に千雪は京助を見た。
「わかった」
京助はスーツの上着を羽織ると玄関へと向かう。
「気いつけて」
「おう」
京助はたったか足早に出て行った。
教授のお供で学会に出席するため、これから新幹線に向かうのだろう。
ぼんやり見送った後、千雪はテーブルに並ぶバターロールにチキンサラダ、湯気があがるポタージュスープの前に座った。
見た途端に空腹を感じて、あっという間に食べ終わる。
「俺だけやのうて、あいつらのことまで気遣うてくれとんのか………デキ過ぎやないか?」
コーヒーを飲みながら、千雪はボソリと呟いた。
冷蔵庫を覗くと、昼用にサンドイッチの作り置きがあった。
「依存し過ぎや思うても、あれば食うてしまうんやからな、俺は」
自分に多少呆れつつも、時間に余裕があったので、念入りにジャージや運動靴の色のあり得ない組み合わせや髪形のぼさっと加減を確かめつつ、黒縁メガネをかけて鏡の前で今日の自分に納得して頷くと、しっかりサンドイッチを携えて千雪は研究室へと向かった。
秋晴れがここ数日続いていたが、千雪が空を仰ぎ見たのは久々だ。
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