昼には気温も上がったのでコーヒーを買ってテラスに出た。
人が寄り付かないだろうことは今朝の反応からも確かだろうと思えた。
千雪が歩いていると、「きゃあ」「うそ、あり得なさすぎ!」「臭いのが移るう」と向こうからやってきた女子数人は上々の反応で、千雪を遠巻きにしながらすれ違った。
この配色はなかなかええチョイスやったかもや。
ふと、向こうから一人でやってくる女子学生が江美子の雰囲気によく似ていた。
「もう悪ふざけも大概にやで、千雪くん」
そう言って江美子がころころ笑っているような気がした。
千雪にじっと見つめられたその女子は、すれ違うなり、キモ、と口にして走り去った。
はあ、と我に返った千雪はテーブルを陣取り、ひとりゆっくりランチをしようとリュックからタッパに入ったサンドイッチを取り出した。
チキンとレタス、トマトのタルタルソースと、卵とベーコン、レタスの二種類は千雪が特に好きなもので、ライ麦パンにバターがしっかり染みている。
それぞれ大振りで二個ずつ入っていて、その一つを取り出して千雪は思い切り齧りついた。
美味い。
全く千雪専用のシェフと化している京助の作ったそれは、それこそサンドイッチ屋でもできそうに美味い。
味わいながら咀嚼していると、目の前に影が落ちた。
「あの、すんません、ここ、ええですやろか」
見上げると佐久間が神妙な顔で立っていた。
せっかくの美味いランチを邪魔された千雪は、怪訝な目を向けた。
「何の用や?」
「すんません、知らぬこととはいえ、俺が浅はかでした。堪忍したって下さい」
そう言うと、佐久間は九〇度も頭を下げる。
「何のこっちゃわかれへんけど。お前、俺に何かしたんか?」
「え、やから、そのアホな呼び名を口にしよったら、金輪際口聞かん言わはって!」
「当たり前やろ」
しれっと言う千雪に、佐久間は情けない顔を向けた。
「二度と口にしまへん!」
「ふーん」
千雪はそんな佐久間を鼻であしらって、持っていたサンドイッチを食べ終えた。
「美味そう、すね………先輩手作りでっか?」
「俺にこんな大それたもん作れるわけあれへんやろ」
それを聞くと佐久間は、また情けなさそうに笑う。
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