メリーゴーランド117

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「ええ、すごおい、こんな美味しそうなお弁当作ってくれる彼女さんがいるんだ?」
 さらににこやかな笑みを浮かべて、伊藤は声のトーンを上げた。
「あ、何か俺に?」
 何も答えず食べている千雪の弁明をするかのように、半分期待感を持って、佐久間が聞いた。
「ねえ、今日は京助さん、いらっしゃらないのかなあ」
 可愛いおねだり風に伊藤が言った。
「ああ、今日は出張でしたよね? 京助先輩」
 佐久間の問いにも答えない千雪に焦るように、佐久間が続けた。
「確か大阪の学会やなかったかな」
「なんだ、そっか。すみません、お食事のお邪魔しちゃって」
 ちょっと斜めに可愛らしく頭を下げて伊藤は立ち去った。
「びっくりしたあ、あの子、今年のミスT大、きれい可愛いし笑顔が素敵だって評判の伊藤涼香ですわ」
「へえ、きれい可愛いねえ」
 千雪は興味もなさげに残りのサンドイッチに手をつけた。
 佐久間はそんな千雪に、はあ、と一つ溜息をつく。
「まあ、そら、千雪先輩からしたら………」
 言いかけてはたと佐久間は口を噤む。
 また千雪の前で禁句を並べるところだったと焦る。
 確かに、真夜……、いや千雪先輩ほどきれいなんはそうそうみたことあれへんなあ。
 美人に興味ないんもわからんこともないけどな。
「あの子、京助先輩狙いみたいなんですよね」
「へえ」
 これもあまり興味がないようだ。
 今までなら佐久間ももっとああでもないこうでもないと並べ立てるところだが、京助が釘を刺したように、今のところ京助は千雪以外に目をむけようがないらしい。
 千雪としては内心、こんなところにもいるわけや、と思う。
「ええ性格しとんのんは、日向野とどっちが上か、やな。男をたらし込みたいのが見え見えやけど、まだ日向野よりは可愛ええもんか?」
 これまでは佐久間に対してそんな科白を吐いたことはなかったが、佐久間にばらしてしまったことでつい、千雪は口にしていた。
「先輩………、ひょっとしてそれこそほんまかなりええ性格してます?」
「今頃気づいたんか? こういう毒にも薬にもならへんカッコして静かに気配消しとると、おもろいで? さっきまで教授にへこへこしてたやつが、俺の前やと平気で同僚とクソミソに教授のこと貶したり、裏の顔晒しよる。アホな話や」
 佐久間はガクッと首を垂れる。
「おもろがってからに、先輩、ほんま、やっぱ名探偵コナンでっしゃろ? 陰でこっそり人のこと観察してはるし」
「俺はそう清廉潔白な人間やない」
 千雪は断言してコーヒーを飲み終えた。

 


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