メリーゴーランド119

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 京助が睨み付けると、佐久間が、「もしかして、あれ、あの、バレンタインの弁当って………」と言う。
「ああ? 俺が精魂込めて作った弁当をあのやろう、さっさと蓋閉じてどっか行きやがって」
「京助先輩がやっぱ作らはったん?」
 佐久間は千雪が開いた弁当の見事なハートマークを思い出していた。
「見て分かっただろう、中身が同じなんだ」
 またぞろ意識が飛びそうに口をあんぐり開けている佐久間に、京助は追い打ちをかけた。 
「お前が想像してる通り、やることはやってるし、俺はあいつと別れるつもりはさらさらないからな」
「名探偵はどうかわらかねぇぞ?」
「るせえんだよ! てめえが邪魔するからだろ!」
 速水のからかいに京助は声を荒げる。 
「おい、言っとくが、お前のそのスピーカーみてぇな口で千雪のことをバラシやがったら、それこそただじゃおかねえからな。当然お前の色っぽい彼女にもだ」
 京助はただでさえいろんな事実に頭がパニクっている佐久間に凄んで見せた。
「は、はあ! 肝に銘じます!」
 ペコリと頭を下げると、佐久間はそそくさと二人の前から姿を消した。
「おい、大丈夫か、後輩くん」
 佐久間のすたこらさっさな後ろ姿に目をやりながら、速水が呟いた。
「フン、あれで、千雪の小説のファンだし、千雪にも脅されて、俺にもあれだけ言われりゃいい加減目が覚めただろ」
 京助は冷めたコーヒーを飲み干すと、立ち上がった。
「で、どこ行くって?」
 速水も続いて立ち上がると、最初の話に戻った。
「まあ、近場ってか、軽井沢くらいしか、ねぇな」
「へえ、今ならいい季節だしな。いつ行くんだ?」
「ちょうど休日が続いてるだろ、あのあたりしきゃねぇな」
 次の週末でもいいが、とにかく千雪の気分次第ってとこだな、と京助は内心思う。
 その頃、千雪は月刊誌の連載原稿にかかりきりで、部屋に閉じこもっていた。
 翌日は講義が一コマあるので、とにかく今日中にあげなければと必死でキーボードを叩いた。
 編集者は未だに千雪の、携帯は嫌いだからもたない、というウソを信じていて、律儀に家電に電話をかけてくるのだが、アパートを訪ねてきたのは後にも先にも一度きりだ。

 


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