「コケようがどうしようが、企画は次から次へと通していくもんだ。万里子はしばらく映画で行くことにしているし、ドラマの方のヒロイン、希望はないのか? センセ」
ムッとしたまま千雪はコーヒーを飲む。
これだから業界人なんか油断がならないのだ、と千雪は苛立ちを隠せない。
「いいじゃない、千雪さん。ドラマはドラマでもっと身近に感じられるし、いろんな人に見てもらえるわ」
万里子が大人な意見を口にした。
言われてみると、実際今度はまた原作をドラマに使おうが、千雪にとっては拒否るほどそんなにデメリットなどないかも知れない。
だが後出しで承認とか、千雪の知らないうちにことが進むのはやはり納得いかない。
「それはそうか知れんけど、工藤さん、俺の知らんうちにことを進めるのんはやめてください」
きっちり言うと、工藤が「わかった」と頷いた。
「だが、これからおそらく次回作も制作するだろうし、ドラマもあるぞ」
「はあ? それって……」
千雪はふう、と息を吐く。
「鬼の工藤は狙ったもんは外さないってよ」
すると目の前に座っている井上がニヤニヤと言った。
「しかし、さすがベストセラー作家だ。業界で鬼と恐れられる工藤に真っ向から文句言うって」
「変な感心の仕方せんといてください」
今度は井上を千雪は睨む。
「んな、他人行儀な、タメ口でいいって」
「思いっきり他人やけど」
すると工藤がまた笑う。
「腕はまあ、悪くはない。映画関連の撮影は任せている。フリーがいいっていうんで嘱託だが」
お茶のあと、鈴木さんを残して上の階にあるスタジオ風の部屋に移動した。
「どうせならこのビルの中にスタジオ作ればいいのに」
井上がボソリと言った。
既にセッティングは済んでいて、あとは被写体だけがそこに立つか座るかすればよしというようになっていた。
パンフレットに載せる画像を撮るというが、千雪はとにかく写真は極力避けたいところだ。
先日の座談会形式の撮影だけでも十分だろうと言いたい千雪ではあるが、ごねてもどのみち意味がないのだろう。
万里子が隣の部屋で千雪にメイクを施しているうちに、志村の撮影が始まった。
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