メリーゴーランド120

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 締め切りをかなりオーバーしてしまった時で、チャイムが鳴って顔を出したのが京助だったのだが、今村は佐久間と同様、千雪のコスプレを信じ切っていたし、よもや二人がどうのなどと考えるべくもなかった。
 その時も、千雪が臭そうだの何だのと信じていたらしい編集者は、玄関でじっと待っていて、京助経由でデータを受け取って帰って行った。
 噂を鵜呑みにして、何ともバカな話だと京助は言った。
 千雪の策略はつまり未だに成功しているわけだ。
 食材を持って京助がやってきたのは夕方だった。
 いつものように何も言わずにキッチンに立って、おそらくろくな食事をしていないだろう千雪のために、オムライスにサーモンと玉ねぎのカルパッチョなどを作り、さらに根菜を使った煮物を並行して作っていた。
 言葉もなく一緒に食事をした後、京助は食器を洗い、炊飯器のご飯を一回分ずつラップでくるんで冷凍庫に入れ、煮物もタッパに入れて冷蔵庫にしまう。
 それから千雪の邪魔をすることなく、京助はソファで眠ってしまった。
 夢中になっている時の千雪は書いている話のこと以外考えていないのだが、ようやく何とか書き終わり、データを送ると、はたと京助がそこにいたことを思い出し、そういえばというように食事を作って食べさせてくれたのだと、今さらながらに有難くも申し訳なく思った。
 無精髭はそのままだし、おそらく疲れていただろうはずなのに。
 ふう、と千雪はため息をついたが、結局のところそのままベッドにダウンして眠ってしまった。
「おい、起きろ」
 翌朝、寝ざめの悪い千雪の毛布を引っぺがして、京助が言った。
「とっととシャワー浴びて来い」
 ようやく起き上がった千雪は半分眠ったまま風呂へと向かった。
「ちゃんと食ってから出かけろよ」
 千雪が風呂から出ると、既に身ぎれいにしてシャツにタイまで結んでいる京助は、食べ終わった食器をシンクで洗っているところだった。
「学会?」
「大阪」
 そう言うと洗い物を終えた京助は振り返り、「次の週末、お前、何か予定あるか?」と聞いた。
「次? うーん、あれへんと思う」
 小首を傾げて千雪は答えた。
「研二や三田村とか、ダチの予定も聞いておけ。ちょっと温泉にでも連れてってやる」
「え………」
 意外な言葉に千雪は京助を見た。

 


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