メリーゴーランド121

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「千雪さん、恋人いるんだっけ?」
 眼鏡を取った千雪を見つめながら万里子が唐突に聞いた。
「うーん、いるようないないような………」
「何それ。あ、わかった、工藤さんだから?」
「あのいつかのモデルさんのことやったら、工藤さんがたまたまその場にいた俺を勝手に利用しただけやから」
「ええ? そおなの? 隠さなくても」
「隠してないし。ほんまに工藤さん、はた迷惑や」
「フフフ、でも、彼女、あなたに負けたって感じだったみたいよ?」
「はあ? あのモデルさん知ったはるん?」
「名前はね。蛇の道はヘビとか言うじゃない。こういう話はどこからともなく耳に入ってくるのよ。彼女、ちょっと工藤さんに夢中になり過ぎたのね。彼女の事務所はしばらく彼女を海外に行かせるみたい」
「なんや、結局女の子が割をくういうこと?」
 工藤はおかまいなしかと千雪は少しイラつく。
「うーん、彼女の場合そう言うんでもないと思う。工藤さんはあくまでも仕事とわきまえてたのに、彼女の方が勝手にのぼせ上ったのよ」
 それから万里子は「醜聞てほどでもないわよ、あたしみたいに」と付け加えた。
「万里子さん、何かあったん?」
「ほんとに千雪さん、芸能人とかに興味ないのね。別にあたしが有名だからとかじゃないわよ? 一次ワイドショーとかで騒がれたから、前の事務所の社長との不倫」
 軽く告げる万里子にはもうそのことに対して引き摺っている様子はないようだ。
「今思うと何であんな優柔不断な男にとか思っちゃう。渦中にいる時は真実が見えないのよね」
「ふーん、そういうもん」
 千雪の撮影はそう長くはかからなかった。
 立ったままの撮影で、井上は何回かシャッターを押した。
 最後は万里子の撮影で、千雪は工藤や志村とその様子を見ていた。
 笑ってとか少し上を向いてなど、いくつか注文をつけながら、井上は千雪の倍以上の時間をかけて撮影している。
「そのうち写真集を出す予定で、ちょくちょく撮ってる」
 工藤が言った。
「彼女、前よりぐんといい表情になりましたよね」
 工藤と志村がそんなことを話している。
「お疲れっ! すごくよかったぜ、今日の万里子さん」
 井上が声をかけると、万里子は笑顔でみんなの方を向いた。
「ねえ、千雪さん」
 工藤に続いて部屋を出ようとした千雪を万里子が呼んだ。
「なに?」
「ちょっと」
 笑いながら万里子が手招きする。
「何やね?」
 怪訝そうに万里子に近寄ると、まさかと思った隙に万里子が千雪の眼鏡を取った。


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