メリーゴーランド121

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「わかった」
 京助はスーツの上着を羽織ると玄関へと向かう。
「気いつけて」
「おう」
 京助はたったか足早に出て行った。
 教授のお供で学会に出席するため、これから新幹線に向かうのだろう。
 ぼんやり見送った後、千雪はテーブルに並ぶバターロールにチキンサラダ、湯気があがるポタージュスープの前に座った。
 見た途端に空腹を感じて、あっという間に食べ終わる。
「俺だけやのうて、あいつらのことまで気遣うてくれとんのか………デキ過ぎやないか?」
 コーヒーを飲みながら、千雪はボソリと呟いた。
 冷蔵庫を覗くと、昼用にサンドイッチの作り置きがあった。
「依存し過ぎや思うても、あれば食うてしまうんやからな、俺は」
 自分に多少呆れつつも、時間に余裕があったので、念入りにジャージや運動靴の色のあり得ない組み合わせや髪形のぼさっと加減を確かめつつ、黒縁メガネをかけて鏡の前で今日の自分に納得して頷くと、しっかりサンドイッチを携えて千雪は研究室へと向かった。
 秋晴れがここ数日続いていたが、千雪が空を仰ぎ見たのは久々だ。
 昼には気温も上がったのでコーヒーを買ってテラスに出た。
 人が寄り付かないだろうことは今朝の反応からも確かだろうと思えた。
 千雪が歩いていると、「きゃあ」「うそ、あり得なさすぎ!」「臭いのが移るう」と向こうからやってきた女子数人は上々の反応で、千雪を遠巻きにしながらすれ違った。
 この配色はなかなかええチョイスやったかもや。
 ふと、向こうから一人でやってくる女子学生が江美子の雰囲気によく似ていた。
「もう悪ふざけも大概にやで、千雪くん」
 そう言って江美子がころころ笑っているような気がした。
 千雪にじっと見つめられたその女子は、すれ違うなり、キモ、と口にして走り去った。
 はあ、と我に返った千雪はテーブルを陣取り、ひとりゆっくりランチをしようとリュックからタッパに入ったサンドイッチを取り出した。
 チキンとレタス、トマトのタルタルソースと、卵とベーコン、レタスの二種類は千雪が特に好きなもので、ライ麦パンにバターがしっかり染みている。
 それぞれ大振りで二個ずつ入っていて、その一つを取り出して千雪は思い切り齧りついた。
 美味い。

 


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