「え???? ちょ……」
取り返そうとする千雪から、万里子はメガネをわざと遠ざけて笑う。
「もう、冗談やめや」
途端、シャッター音が続いて、千雪が井上の方を振り返ったところでまたシャッターが押された。
「何? 何? 千雪さん?????? うそ………」
井上はぽかんと千雪を見つめている。
「何はこっちのせりふや。今、撮ったやつ、消しといてんか」
千雪はイラついた表情で井上を睨む。
そんな千雪に万里子が眼鏡を渡す。
「だって、メガネ、邪魔じゃない?」
眉を顰めた千雪はそれ以上万里子に何も言わずメガネをポケットにしまう。
「ね、ね、あたしも一緒に写ってる?」
万里子は井上に聞いた。
「え、あ、ああ、びっくりしたあ。何? 小林センセ、いつもは、フェイク? 何で? おっそろし美人!」
井上は撮ったデータを覗きながら、ブツブツと口にする。
「やから消せ、いうとるやろ!」
「おい、社外秘だぞ」
工藤がドアを開きながら言った。
「ちょ、工藤さん!!」
万里子のお茶目ないたずらからとはいえ、工藤までが適当にいなしているのが千雪はイラついた。
「ええ? 俺だけ除け者だったん?」
「おい!」
千雪は井上を睨み付ける。
「SNSなんかにあげたりしないって。ってか、もうちょと、撮らせて?」
井上の呆れた発言に、千雪はたったか部屋を出た。
オフィスに戻ると、鈴木さんが「お疲れ様」と今度は熱い日本茶を出してくれた。
「おおきに」
千雪はそれを飲もうとして、「あちっ」とすぐ茶碗を離す。
「千雪さん、何だかずっとイラついてる?」
続いてやってきた万里子に言われて千雪は、ああ、そうやな、と自分でもそう思う。
もうずっと、何だかそんな感じだ。
「だめよ? たまには笑わないと、工藤さんみたいになっちゃうよ?」
千雪は思わず工藤を見て「冗談やない」と呟いた。
工藤がフンと鼻で笑う。
遅れて戻ってきた井上が眼鏡のない千雪がみんなと馴染んでいるのを見て、「やっぱ俺だけ除けもん?」と文句を言った。
「工藤さん、ひょっとして千雪センセをそのうち大々的に作家兼モデルかなんかで売り出すとか?」
「あり得へん!」
千雪が即否定する。
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