メリーゴーランド123

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「その辺にしておけ。センセはそういう対象じゃない」
 工藤が一応加勢する。
「でも、一緒に写した写真だけ頂戴。パネルにしてくれてもいいわよ?」
 万里子は千雪や工藤の話は無視で井上にねだっている。
 気分転換と思ってここに来たのにと、千雪は思うが、あっけらかんとした万里子には少し笑みがこぼれる。
「ドラマの方は、いつ頃からとかまだわかりませんよね?」
 志村のマネージャー小杉が工藤に聞いた。
「そうだな、志村は結構タイトだから、早めに確認しておく。多喜川さんの方はもう押さえてある」
 もう既にドラマは仕事として始まっているのだと、千雪は改めて思う。
「ドラマとかもう、イチイチ俺に確認せんでも勝手にやってくれはってええですから」
「そうはいかないだろう。まあ、最小限、関わるのは覚悟しておけ」
「はあ、それで何をやらはるんです?」
「短編があったろう、『朧に月は』。二時間ドラマ枠にちょうどいい」
 それを聞くと、千雪は内心、クソ、と思う。
 朧に月は、は千雪としても好きな作品で、内容自体も自分の作品の中ではいいものだと思っているし、評価も高かった。
 ちゃんとそれをチェックしているらしいのが工藤の小憎らしいところである。
 やがて万里子は迎えに来たマネージャーの菊池と慌てて次のスタジオに向かい、志村と小杉、それに井上も次の仕事へとオフィスを出て行くと、工藤にまた電話がかかったところで千雪も暇を告げた。
 外に出ると既に夕暮れが近く、赤く色づいた葉の横で街路灯が灯り始めていた。
 ちょうど千雪が階段を降りたところで、地下鉄とは逆の方向から走ってくる女性がいた。
 何気なくそちらの方を見た千雪は、いきなりその女性に腕を掴まれ、青山プロダクションのビルのエレベーター横の丸い柱の陰へと引っ張り込まれた。
「ちょ、何やね! お前………!!」
「静かに!」
 その声には何やら切羽詰まったような感じがあり、千雪は口を噤んだ。
 すると間もなくバタバタと二人の男の足音がビルの横を走り抜けるのがチラッと見えた。
「どないしてん? 警察よぼか?」
 どうやら胡散臭げな状況に、千雪は腕を掴んでいる女性に尋ねた。
「うーん、今警察行っても、被害届出して終わり、ってとこじゃない?」
 へえ、この子、ようわかっとるやんか、と思った千雪を女性が振り返った。
「あ、あなたって、ひょっとして…………」
 そう言いたかったのは千雪の方だ。

 


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