「けど、ここにずっといるわけにもいかんし、タクシー呼んで……」
「いや! タクシーは怖いわ!」
千雪の提案にもアスカは断固として動かないようすだ。
千雪は工藤を見た。
「ちょっと彼女、送ったって下さいよ、工藤さん」
煙草を咥えていた工藤は途端に渋い顔をした。
「女性が一人で困っとんのに」
「ったく、俺はお前のタクシーか」
工藤がドアの方へ発ったか歩いて行く。
「ほら、行くぞ」
「ほな、工藤さんに送ってもろて……」
「いやっ! あなたもきて!」
するとアスカはまた千雪の腕をしっかと掴む。
「女性が一人で困ってるんだろ?」
今度は工藤が茶化した。
仕方なく千雪も一緒にアスカを送り届けることになった。
二人は工藤のベンツの後ろに乗り込んだ。
「で? 住所は?」
運転席の工藤が聞いた。
アスカが碑文谷の住所を言うと、工藤はナビに設定し、駐車場を出た。
車は公園を左に見てやがて外苑西通りへ入り、上大崎を右折して目黒通りに入った。
それから田向通に入って少し走ったところに低いブロック塀で囲まれた古い邸宅があった。
「着いたぞ」
「ほならな。気いつけて」
ところが、アスカは千雪の腕を離さない。
「いや! ついてきて!」
「おい、俺はこれからスタジオなんだ」
不機嫌そうに工藤が言った。
「も、しゃあないな。あとはタクシー拾いますよって、降りますわ」
あたりは大きな屋敷やマンションが建ち並ぶ通りだ。
しかも緑があったり塀があったりで、夕暮れ女性が一人で歩くのは敬遠したいような通りだ。
「大丈夫か? 相棒はどうした?」
一応気遣うように工藤が聞いた。
「大阪です。俺は平気ですよ」
ちょっとムッとして千雪は答えると、アスカと一緒に車を降りた。
アスカは門の横の施錠してある木戸を鍵で開けた。
庭園灯が鈍く光っていた。
玄関まで敷き詰められた古い石畳のアプローチが続いている。
ところが、アスカがいきなり止まったので後ろを歩いていた千雪はアスカにぶつかりそうになった。
「どないした?」
「リビング、灯りついてないはずなのに、今、灯りが動いた!」
「ええ?!」
アスカが千雪の腕をぎゅっと掴む。
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