メリーゴーランド126

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「あら、千雪さん、いらっしゃい」
 この会社の癒し系担当の鈴木さんがにっこりと出迎えてくれた。
「こんにちは」
「お仕事の方は大丈夫なの?」
 万里子が聞いた。
「ええ、まあ」
 すると井上が急に近づいてきた。
「あれえ、名探偵、いつものいでたちと違わない? 妙にクールじゃん」
 井上にジロジロみられて千雪はつい身を後ろに引いた。
 奥の自分のデスクからやってきた工藤が千雪を頭のてっぺんからつま先まで検分するように見ると、「ま、いいか。色も地味目だしな」と言った。
「メイクは任せて」
 万里子が笑う。
「その前に一休みしよう」
 志村の後ろにはマネージャーの小杉が控えていた。
「ねえ、次回作もあたし出たいな。千雪さん、あたしにぴったりのキャストってない?」
 隣に座った万里子がそんなことを言い出した。
「次回作て、まだ今回作も封切られてへんのに」
「あら、撮影し始める頃にはもう次の仕事は決まってるようなものよ? この業界じゃ」
「は?」
 千雪は眉を顰めて苦笑した。
 まさか、と言う顔で工藤を見やる。
「とりあえずドラマで行くことになってる」
「はあ? どういうことですの? それ」
 思わず強い口調で尋ねた。
「どういうこともそういうことさ。KBCテレビで映画とほぼ同じキャスティングでドラマ化されることになった。来年秋放映予定だ」
「予定て、そんなん、俺に断りもなく」
 千雪は工藤に抗議した。
「だから今断ってるだろ?」
 にやりと笑う工藤を千雪は思い切り睨み付ける。
「第一、封切りは来年春で、コケるか知れへんのにドラマやなんて、ようそんな企画とおさはるな!」
「コケようがどうしようが、企画は次から次へと通していくもんだ。万里子はしばらく映画で行くことにしているし、ドラマの方のヒロイン、希望はないのか? センセ」
 ムッとしたまま千雪はコーヒーを飲む。
 これだから業界人なんか油断がならないのだ、と千雪は苛立ちを隠せない。
「いいじゃない、千雪さん。ドラマはドラマでもっと身近に感じられるし、いろんな人に見てもらえるわ」
 万里子が大人な意見を口にした。
 言われてみると、実際今度はまた原作をドラマに使おうが、千雪にとっては拒否るほどそんなにデメリットなどないかも知れない。
 だが後出しで承認とか、千雪の知らないうちにことが進むのはやはり納得いかない。
 

 

 


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