メリーゴーランド139

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「わかった。おい、お嬢さんを中へ連れてってくれ」
 千雪を車に乗せながら渋谷は二人の刑事を振り返った。
「あ、カード、渡してください。部屋に入って奥にゲストルームがありますよって」
 千雪はポケットからカードを出して若い刑事の一人に渡した。
 アスカは二人の刑事に守られながら、ジョージの横を通って中に入りしな、渋谷の車の方を一度振り返ったが、千雪はそれには気がつかなかった。
 渋谷は千雪の傷を見て、車に置いていた救急キットからガーゼを取り出し、千雪の腕を巻くと、エンジンをかける前に加賀に電話を入れた。
「俺んちはお前の専属いつでもどうぞな医者じゃねぇぞ」
 十回目のコールで出た加賀は、開口一番文句を言った。
「フン、どうせ飲んだくれてるだけのくせに」
「何の酒がなきゃ、生きていて何が面白い」
「とにかくいつだったか、怪我手当てしてもらった小説家の先生、ちょっとヤバイ傷で、すぐ向かう」
 相手の答えも聞かずに渋谷は携帯を切るとすぐにエンジンをかけた。
「二十分ほどかかるぞ、大丈夫か?」
「大丈夫。でも血は苦手なんで、早いとこ処置してほしいかも」
 渋谷は飛ばせるだけ飛ばした。
 非常に不機嫌そうな顔をしながらも、加賀は医院のドアを開けて二人を中に入れた。
「そう深くはないが範囲が広いしちょっと縫っておこう」
 加賀は千雪の腕の処置をした後、念のためにと抗生剤を処方してくれた。
「アジア系のチンピラ? お前がついてたんだろ? ったく何やってんだ」
「面目ない」
 渋谷は加賀に言われて首を垂れた。
「だが、何だって俺ンとこ? 救急病院とかもあっただろう」
「いやそれが……」
「俺が頼んだんです。ちょっとメンドイことになるかもやから」
 すると、加賀はしばし千雪を見つめた。
「ん? その関西弁、前にも来たか?」
「やから、去年、渋谷さんに連れてきてもろて」
「小説家の小林千雪くんだ」
「ええ、おお?」
 加賀は妙な声を上げて千雪をまたまじまじと見た。
「何かこないだとえらい、様子が違わないか? ブットいメガネやめたら、アイドルになったとか?」
「アイドル、やめてください。メガネはフェイクで、フリしてるだけで」
「なんでまたああ?」
 大仰に加賀が声をあげた。


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